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聴力と認知症

[2023.07.30]

最近、中年期以降の聴力の低下が認知症の発症のしやすさと関連しており、認知症の9%が聴力低下と関連しているという報告もあります(PMID: 32871106)。例えば、アメリカの報告ですが、1984名の高齢者を追跡調査すると調査開始時点で聴力低下があった人はそうでない人に比べると1.24倍認知症になりやすかったそうです(PMID: 23337978)。

聴力低下と認知症がどのように関連しているのかについては、いくつかの仮説があります。

1.  認知症という病気のプロセスが記憶力だけでなく聴力にも影響を与えている

2. 聴力が低下すると他人とのコミュニケーションが減ってしまい、周囲から得られる刺激が減り単調な生活に陥るため、認知症が発症しやすくなる

3. 脳の神経細胞が減り認知機能が低下していくと、少ない神経細胞(リスース)でいろいろな事を脳は処理しないといけないので、耳から音や言葉を聞いてそれを脳の中で処理する余裕がなくなる

などが考えられていますが、結論は出ていません。また、ここで問題となるのは、聴力低下が認知症の原因なのか、あるいは認知症が発症するから聴力が低下していくのかです(鶏が先か卵が先か)。

認知症、特にアルツハイマー病は物忘れなどの症状が明らかになる20年以上前から、脳の中で病気は始まっていると考えられています。ですから、認知症を発症する前に聴力が低下したとしても、それは脳の中で密かに発症・進行している認知症によるものである可能性もあります。

最近、アメリカから補聴器の使用によって認知症を予防できる可能性を示す研究が発表されました。この研究では聴力低下がある70-84歳の高齢者を無作為に2群に振り分け、一方のグループは何もせず、他方のグループでは補聴器を使ってもらいました。3年後、両グループ間で認知機能に差がありませんでしたが、より高齢で女性、独居、教育歴が短い、糖尿病や高血圧があるといった、もともと認知症を発症する危険の高い群に着目すると、補聴器の使用は認知機能の低下を48%抑えていました(PMID: 37478886)。

まだ1つだけの報告なので断定的なことは言えませんが、この研究からは、聴力低下は認知症の結果ではなく原因の1つかもしれません。また補聴器を使用することにより、もともと認知症を発症する危険が高い人達は認知症を予防することができるかもしれません。

digital illustration.

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