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パーキンソン病の便秘(αシヌクレインと治験薬)

[2023.06.30]

パーキンソン病では、震えや歩行障害などの運動症状に先行して便秘が見られることが珍しくありません。この現象は古くから知られていましたが、その理由は分かっていませんでした。私が医者になってすぐ位の頃には、便秘という現象が何らかの形でパーキンソン病を引き起こすのではないかという仮説を主張する人もいました。

その後研究が進み、αシヌクレインという蛋白が神経細胞に蓄積し、これが細胞死を引き起こしてパーキンソン病の原因になっているということが分かってきました。さらにαシヌクレインは脳内の神経細胞に蓄積する前に、腸管の神経細胞に蓄積することも明らかになっています。つまり、まず何らかの原因でαシヌクレインが腸管の神経細胞に蓄積しこれが便秘を引き起こす、そして腸管内のαシヌクレインが少しずつ脳内に移行して運動症状を引き子起こすという考えが現在では有力です。であれば、体内のαシヌクレインを薬で除去できれば病気の進行を抑えることができるのでしょうか?

すでに脳内のαシヌクレインを標的とした薬の治験が行われていますが、残念ながら進行を抑えることができませんでした(パーキンソン病に対する2つのαシヌクレイン抗体による臨床試験の失敗)。こうした結果を受けて、αシヌクレインを標的としたパーキンソン病治療薬については、なかなか見通しは厳しいという見方が増える中で、今回、腸管内のαシヌクレインを標的としたENT-01という新薬の治験が行われました(PMID36343348)。この薬の第2相試験の結果では、便秘などの消化器症状の改善が見られ、他にも認知機能や精神症状の改善も認めたようです。まだ第2相試験ですし、なんとも言えませんが薬の改良が続けばαシヌクレインを標的とし症状改善、進行予防の薬が実用化されるかもしれません(ただし、そうだとしてもそれは10年以上先の話だと思います)。

Senior man is suffering stomach pain

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