痰が緑でも抗生剤はいらない?
風邪や咳が長引くと、痰の色が気になって「緑色になったから細菌感染では?」と不安になる方は多いかもしれません。医療機関を受診した際に「痰が黄色や緑色なら抗生剤が必要」と思い込んでしまうのも無理はありません。しかし、実は「痰の色」と「抗生剤の必要性」には直接的な関係がないことが、近年の研究やガイドラインによって明らかになっています。
◆ 痰が緑色になるのはなぜ?
痰が緑色に見えるのは、体が感染と戦う際に分泌される白血球、特に好中球が関係しています。好中球が放出する「ミエロペルオキシダーゼ」という酵素には緑色の色素が含まれており、それが痰に混ざることで色が変わるのです。これはウイルス性の感染症でも起こる自然な免疫反応の一つで、必ずしも細菌が原因とは限りません。
◆ ウイルス感染でも痰は緑になる
風邪(急性上気道炎)や急性気管支炎のほとんどはウイルスが原因です。たとえ痰が緑色や黄色であっても、原因がウイルスであれば抗生剤は効果がありません。米国の感染症学会(IDSA)や英国NHSのガイドラインでも、「痰の色だけでは細菌感染かウイルス感染かを判別できない」と明記されています。
◆ 抗生剤の乱用はリスクにも
抗生剤は必要な時にだけ使うべき薬です。風邪やウイルス性の気管支炎に対して無意味に使うと、耐性菌の発生や副作用のリスク(下痢、アレルギー反応など)を招くおそれがあります。また、抗生剤を使っても自然経過で回復する症状が早く治るとは限りません。
文献・ガイドライン
British Medical Journal (BMJ, 2014)
「緑色や黄色の痰の存在は抗生剤使用の信頼できる指標ではない」と記載。
Harvard Health Publishing (Harvard Medical School)
「鼻水や痰の色では細菌感染かどうかは判断できない。色は体の免疫反応の一部である」。
Clinical Practice Guidelines by the IDSA (2018)
「急性気管支炎の大半はウイルス性。色つきの痰は診断指標にならない」。
Cleveland Clinic
「痰の色だけではウイルスか細菌かはわからない。抗生剤は症状や経過で総合的に判断すべき」。
◆ まとめ
痰が緑だからといって、すぐに抗生剤が必要なわけではありません。重要なのは、熱、呼吸困難、胸の痛み、症状の持続日数などの全体的な症状の評価です。むやみに抗生剤を求めるより、必要かどうかを医師と相談して慎重に判断することが大切です。