パーキンソン病と窒息
パーキンソン病に罹患していることを公表していた、みのもんたさんが亡くなりました。1月に焼き肉屋で食べた肉で窒息し救急搬送され、その後あまり状態が良くなかったそうです。
パーキンソン病に限らず、脳出血、脳梗塞、認知症など脳の病気では嚥下機能が低下します。人間は食道と気管が隣同士に並んでおり、本来は食べ物が通過する時は自動的に気管に入らないような仕組みが備わっています。しかし上記のような脳の病気になると、この仕組みがうまく働かなくなり食べ物が気管に入る危険が増え、誤嚥やそれに伴う肺炎や窒息が起きやすくなります。
今まで食べ物による窒息で亡くなった人はほとんど経験はありませんが、2人だけ病室で窒息しかけた人がいます。お2人とも、面会の方が持ち込んだおだんごを気管に詰めてしまいました。どちらの場合も、長いピンセットのようなものでお団子をつまんで取り出すことができましたが、自宅で起きていたら亡くなっていたかもしれません。面会の方は小さなお団子なので大丈夫だと思ったのでしょうが、直径2cm程度のお団子はちょうど気管支の入り口をぴったり塞いでしまう大きさなのです。
嚥下機能が低下しているかどうかは通常の診察ではよく分かりません。食事中にむせ込みがないから大丈夫と言われることがありますが、実は肺炎や窒息を起こすような方は誤嚥してもむせ込みが見られません。異物が気管に落ちると咳が出ますが、これは異物が気管に入らないようにする咳嗽反射という仕組みです。パーキンソン病など脳の病気が進行すると、この咳嗽反射が徐々に起きなくなります。このような方で嚥下の検査をすると、食べたものがどんどん気管に落ち込んでもまったく咳が出ません。なので、咳、むせ込みがある間はまだましで、これが全くなくなると誤嚥、窒息の危険が非常に増えます。
パーキンソン病では、薬を増やしても嚥下機能はあまり改善しません。また嚥下機能を正確に評価するためには嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査など少し特殊な検査が必要です。訪問で歯科治療をしてくれる医院の中には嚥下内視鏡検査をしてくれることろもありますので、訪問診療を受けている患者さんでお願いすることもあります。
嚥下機能が落ちている場合は食事の際の姿勢や食事の形態が重要になります。窒息を防ぐため食事を細かく刻んだり、とろみを付けたり、ペースト状にしたりします。ただ食事の形態を変えると食べたくなくなるという人もいます。また言語聴覚療法士によるリハビリテーションを行う場合もあります。薬を増やすこともありますが、目に見えるような改善が得られることはかなり稀です。
どうしても口から食べることが難しくなれば、胃瘻という選択肢も考慮します。ただ、最近は胃瘻を希望する方はほとんどいません。この辺は、個人の価値観にもよると思いますが、私自身は患者さんが意識もはっきりしていて会話も可能な程度であれば胃瘻を作っても良いと思います。