認知症の発症率は減っている
15-16年くらい前から、高齢者の増加、平均寿命の延長に伴い目に見えて認知症患者さんの数が増えるようになりました。このまま増えていくと、認知症の方が街にあふれ適切な介護・医療が受けられない人がたくさん出てくるのではという懸念が高まり、平成25年には国が「認知症施策推進5カ年計画」を策定しています(通称オレンジプラン)。また平成27年には認知症の方が住み慣れた地域で生活できることを目指すための新オレンジプランが策定されています。
しかし2020年には、以下のような記事が出ています。
「認知症の発症率、欧米で下がり始めた 科学者が考えた「なぜ」」
欧米からの報告ですが、生涯を通じた認知症発症のリスクが13%減った、あるいはアルツハイマー病の発症率が10年で16%低下したというものです。
また今年の5月には厚生労働省から以下のような発表が出ています。
「2040年、認知症患者584万人 健康志向で下方修正 厚労省推計」
厚生労働省は2040年には認知症の患者数が802万人に達するという予測を584万人に下方修正しました。
もちろん、認知症の患者さんは私たちの周りにたくさんいます。ただ、これまでは高齢化、高齢者数の増加により認知症の患者数もどんど増えていくと考えられていましたが、その増加スピードは以前予想されたほどではなさそうだということです。
なぜこのような事が起こるのでしょうか?
理由は複数あると考えられます。一つは多くの人が成長の段階でより長く教育を受けるようになったことがあります。教育歴は認知症の発症に逆比例していることが以前から分かっています。もう一つは高血圧、高コレステロール、糖尿病などのいわゆる生活習慣病の改善です。こうした病気は認知症の発症リスクを押し上げることが分かっていますが健診の普及、治療の必要性が認識されてきたこと、治療薬の進歩により生活習慣病が全体に改善した結果、認知症の発症率も低下していると考えられます。
依然として認知症に対する根本的な治療薬はなく介護も必要になることが多いので、社会的にはまだ大きな課題のある病気ですが、このように外堀を埋める形で少しずつ患者数は減っていくのかもしれません。
またこうした生活習慣病の改善は認知症の発症率の減少だけではなく、例えば国内の透析患者数も2022年末に減少に転じています。やはり透析の原因となる腎炎、糖尿病、高血圧などの治療が進歩したためだと考えられます。