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ALSの治療薬(まとめ)

[2024.12.12]

以前、このブログでも書きましたがALSの新しい治療薬メコバラミン(商品名ロゼバラミン)が発売されました。ALSの治療薬の開発は非常に難しく、この30年間で使えるようになった薬はこれでようやく4つ目です。現在使用可能な薬と、開発中の薬についてまとめてみました。

リルゾール(リルテック) 最初に出た薬です。ALS患者さんでは、髄液という脳や脊髄内を循環する液体の中のグルタミン酸が増えているということは分かっていましたが、それがALSとどのように関係しているのかは当初分かりませんでした。その後に研究が進み、グルタミン酸というアミノ酸は身体とって重要な物質ですが、過剰に存在すると神経細胞に毒性を発揮することが分かりました。リルゾールは、このグルタミン酸による神経細胞の傷害を防ぐ働きがあります。効果ですが、平均3ヶ月の寿命延長効果があると言われていますが、四肢の筋力低下に対しては効果は見られないようです。

エダラボン(ラジカット内用懸濁液)もともとは脳梗塞の治療薬として開発されたもので、フリーラジカルという物質の働きを抑える作用があります。フリーラジカルは体内で生成される物質ですが、老化や様々な疾患に関与していることが分かっており、脳梗塞でも発症直後は脳内にフリーラジカルが発生し、それが神経細胞を傷害することが分かっています。ALSにおいてもフリーラジカルが神経細胞を傷害することが分かり、ALSの治療薬として治験がおこなわれ認可されました。実際の効果ですが認可の基となった国内治験では、進行を2/3程度に抑えたと報告されています。また、海外の研究では6ヶ月程度の寿命延長効果があるという報告もあります。リルゾールと同様、四肢の筋力や呼吸筋の筋力低下を改善させる効果はありません。実際に処方していると、進行が遅いひとや筋萎縮が目立たない方では効果があるように思います。

メコバラミン(ロゼバラミン) 今回、新たに承認された薬です。ビタミンB12を大量に筋注するという薬です。ビタミンなので副作用はほとんどありません(尿が赤くなります)。ビタミンB12が神経細胞に対して保護的に働くということは、かなり以前から分かっていましたが、具体的にALSになぜ効果があるのかはよく分かっていません。効果としては、治験終了時点で43%の進行抑制効果が見られています。週2回の筋肉注射なので、患者さんの負担はやや大きくなります。やはり進行抑制効果はあっても、現在ある症状が改善することはありません。

トフェルセン ALSの10%程度は遺伝子の異常によって発症します。こうしたALSを家族性ALSと呼びます(その他の90%は孤発性ALSと言います)。家族性ALSの原因となる遺伝子はいくつか知られていますが、その中でもっとも頻度が多いのがSOD1という遺伝子です。SOD1という遺伝子に変異がおきると、間違ったSOD1蛋白質が作られ、これがALSを発症させると考えられています。トフェルセンは、このSOD1蛋白質の働きを抑えて進行を抑える効果があります。SOD1遺伝子に異常がある患者さんにしか効果はありません。

以下は現在治験中の薬です。

ロピニロール もともとパーキンソン病の薬として開発され現在、使用されています。ALS患者さんから作ったiPS細胞を用いて治療薬候補を調べる過程で、このロピニロールがALSに効果がある可能性が見いだされました。最初の治験では、1年間の投与により約7ヶ月進行を遅らせる可能性があったと報告されています。現在、さらなる治験が進行中です。

ボスチニブ もともと白血病の薬として開発され、現在使用されています。この薬もやはりロピニロールと同様にiPS細胞を用いたスクリーニングで見いだされたものです。現在、治験が進行中です。以前にこのブログでも紹介しました(京都大学が発表したALS治療薬について)。

ALSの治療薬の開発は非常に難しく、今のところ症状を改善させる薬はまだできていません。上記の薬も治験での進行抑制効果は非常に早期の患者さんを対象としたものなので、ある程度進行した人にどの程度の効果があるのかは分かりません。

患者さんからは「良くならないのなら、薬を使っても・・」と言われることがあります。確かに進行を遅くすると言ってもそれは見えづらい効果です。それでも進行抑制効果のある薬を使い、近い将来にもっと良い薬ができることを期待される人もいます。一方、最初から治療については消極的な方もいます。高齢だったり家族が乏しい方のほうが、治療に消極的な方が多いように思います。内服薬を飲んだとしても、その先で胃瘻を作るのか、気管切開をして呼吸器をつなぐのかといった治療の選択は患者さんによってかなり異なります。これまでそれなりの数のALS患者さんは診てきましたが、どの選択肢が良いということは一概には言えず、やはり最終的には患者さんの価値観、人生観ということになるのだと思います。

 

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