アルツハイマー病の治療薬と食欲低下・失神との関係
アルツハイマー病患者さんに用いられる代表的な薬にドネペジル(アリセプト)、ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(リバスタッチパッチ)の3種類があります(括弧内は商品名)。これらの3つはコリンエステラーゼ阻害薬という薬で、脳の中のアセチルコリンという物質を増やす働きがあります。アセチルコリンは脳の中で記憶などに関係しており、アルツハイマー病患者さんの脳内ではアセチルコリンが減っているため、こうした薬を使うことにより認知機能の改善や進行を緩やかにする効果があります。
ただ薬なので、副作用もあります。もっとも代表的かつ頻度の多い副作用が下痢、嘔気(嘔吐)で20人に1人くらい見られます。また、特にドネペジルでは怒りっぽくなったり、夜眠れなくなるといった副作用も報告されていますが、この副作用は有名な割には実際の頻度はそれほど多くないと思います。そもそもアルツハイマー病患者さんは、もともと怒りっぽいことが多く(特に家族に対して)、睡眠覚醒リズムも正常でないことが多いため、薬の副作用なのか病気の症状なのかははっきりしないことも多いです。
頻度は多くないのですが、気をつけないといけない副作用が失神と食欲低下です。前述した下痢や嘔気は投与後すぐに出現することが多いのですが、失神と食欲低下は投与後しばらくたってから出てくることが多く、薬の副作用だとなかなか気づかれないことが多くいろいろ検査をしても原因がわからないと医療機関を転々とすることもあります。特に、最初の投薬は専門医で開始されその後はかかりつけ医で投薬を受けていると気づかれないことが多いようです。
失神は、検査をすると失神の原因となるような不整脈が見つかることもありますが、検査では異常がなくても薬を服用している間は失神を繰り返し服用を止めたら失神がなくなった方も経験したことがあります。ただ、このようなケースは失神をおこした時の心電図を記録できていれば異常が見つかった可能性があります。
食欲低下は嘔気と関連したものだと思うのですが、患者さん自身は吐き気を訴えず「食べたくない」とだけ言うため気づかれないことがあります。また、投薬を開始してから数ヶ月経過してから徐々に食欲低下が出てくることがあり薬の副作用と気づかれないことがあります。
失神も食欲低下もどの程度の頻度で起こるのかは分かりませんが、おそらく50人から100人に1人かそれ以下だと思います。3種類の薬の中でどれが副作用を起こしやすいのかは統計がないのでなんとも言えませんが、印象としてはドネペジルは一番多い印象です。ただ処方する頻度もドネペジルが一番多いので、よく処方するので副作用もそれだけ多く経験するだけかもしれません。
いずれの副作用も薬を中止すれば消えてしまうので、副作用が疑われる場合は薬を中止することが一番の治療になります。