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脊髄の電気刺激でパーキンソン病患者が歩けるようにする研究

[2023.11.18]

スイスの研究者たちが、パーキンソン病患者さんの脊髄神経に電極を埋め込み刺激を与えることにより歩行能力が改善したという報告をしました(パーキンソン病患者が転ばず歩けるように 脊髄に電気刺激)。このSWIのサイトにある動画を見ると、患者さんの歩き方は著明に改善しています。

この研究では、腰にある腰仙髄という神経に電極を埋め込んでいます。この神経は脊髄から両脚に伸びている神経です。つまり歩くときに脳から出た信号がこの神経を通って脚の筋肉に伝わって脚が動きます。まずパーキンソン病のモデル動物で健康な状態とパーキンソン病になった状態で、この神経を伝わる信号パターンがどう違うのかを調べ、病気になった状態で神経に電極を埋め込み正常の信号パターンになるように修正するという基礎的な実験をしています。

そもそもパーキンソン病の方は、歩けないと言っても脚が麻痺している訳ではありません。これは有名な動画ですが、普通に歩こうとしてもすくみ足が強く脚が前に出ない患者さんでも、自転車に乗せてあげるとスムーズにペダルをこぐことができることがあります(Cycling for Freezing Gait in Parkinson's Disease)。

パーキンソン病を発症すると歩行障害をおこすのは、脚が麻痺しているわけではなく「歩く」という運動プログラムが正常に遂行できないためと考えられています。そのため、歩く以外の「自転車をこぐ」という運動プログラムは正常にできたりするのだと思われます。

私はこうした神経生理学には疎いので、この研究者が発表した論文を読んでも原理はよく分からないのですが、おそらく腰仙髄の神経を電気刺激することにより運動プログラムがうまく動くようになっているのではないでしょうか?

ただ、画期的な研究ですがいろいろと問題はあります。まず前述のSWIの中の動画でも触れていますが、もう一人電極を埋め込んだ患者さんはあまり効果はなかったようです。また治療自体、かなりオーダーメイドの部分が大きいようで一般化して普及するのはまだまだ先だと思います。この治療は歩行以外の症状は改善させる可能性は低いでしょう。とはいえ、DBS(脳深部電極刺激術)のように脳に電極を入れるわけではなく症状を改善させたことは画期的です。今後、この治療法の原理が解明されより簡便な方法でできるようになると良いと思います。DBSにしても、まだまだオーダーメイドな部分が大きい治療ですし体への侵襲も大きな治療です。今回の脊髄への電気刺激療法がDBSと同程度に普及する可能性はあると思います。

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