貧血と脳貧血の違い
時々、若い女性の方が多いのですが、立っていたら急に血の気が引く感じがして座り込んでしまい気分が悪くなった。周りの人に「貧血じゃないの?」と言われたので血液検査をしてほしいと受診される方がいます。こうした症状の多くは「貧血」ではなくいわゆる「脳貧血」のことが多いと思います。
貧血の医学的な定義は血液中のヘモグロビン(血色素)が減ることです。お手元に健診などの血液検査の結果があれば、その中におそらくHb・血色素・ヘモグロビンのいずれかが書かれた項目があり、その数字は11-14程度になっていると思います。一方、上記のような症状の多くは、血管迷走神経反射という現象により、一時的に血圧が低下し脳に行く血液量が減ることにより起こるもので、ほとんどの場合は数分で改善しますし、ヘモグロビンの量とは関係なくおこります。血管迷走神経反射はストレスや痛み、緊張、睡眠不足などで起こります。注射をした後に気分が悪くなる方が時々いますが、それも血管迷走神経反射によるものです。
では、貧血の症状とはどのような症状でしょうか?これは貧血の原因にもよりますが、例えば何らかの原因で大量に出血をして血液、ヘモグロビンが失われる状態になれば血圧も低下し、やはり意識が遠のいたり意識を失ったりします。ただし、こうした原因による出血は日常生活では比較的希で、もっとも頻度が多いのは鉄不足による鉄欠乏性貧血でしょう。鉄はヘモグロビンを作るために必要な材料なので、鉄不足になるとヘモグロビンが減少し貧血になります。こうした徐々に起こるような慢性的な貧血の場合、立ちくらみや失神、ふらつきなどが起きることは希で、多くの場合は易疲労感、息切れなどが多く、鉄欠乏性貧血では、布団に入ると脚がムズムズして眠れなくなったり(むずむず脚症候群)頭痛、異食(氷を食べたくなる)が起きます。症状が出る前に健診などの血液検査で貧血が見つかり受診される方も多くいます。
つまり慢性的な貧血の症状と、最初に書いた「脳貧血」とはかなり症状が異なるのがお分かり頂けるかと思います。
最初に書いて、「血の気が引くような感じがして気分が悪くなる」というのは、多くの場合は一時的な血圧の低下によるものです。比較的若い女性に多く、満員電車の中で顔が青くなって気分が悪くなったり、朝礼などで長時間立っていたときに起きます。「脳貧血」と呼ぶ人もいますが、脳梗塞など脳の病気ではありませんので頭のCTやMRIは不要です。
また、立ち上がった時に動悸、息切れ、めまい、ふらつき、頭痛といった症状がおきて立っていられなくなるPOTS(体位性頻脈症候群)という病気もあります(ここに詳しく書かれています)。