パーキンソン病の薬を減らせますか?
パーキンソン病の罹病期間が長くなると、どうしても服用している薬の数が増えます。パーキンソン病以外に高血圧症や糖尿病をお持ちだと、さらに薬が増えるため患者さんが「薬を減らしたい」と訴えることが珍しくありません。また巷には、「パーキンソン病の薬を減らせる」「減らすと良くなる」と謳う人達もいるようです(ほとんどが脳神経内科医ではない人達)。
確かに患者さんを長く診ていると、途中で薬を減量することはありますが理由としては以下のようなものがあります。
- 薬の副作用のため減量が必要 不随意運動(ジスキネジア)が非常に悪化するとセレジストなどのMAO-B阻害薬やエンタカポンなどのCOMT阻害薬の中止、減量が必要になります。それでもジスキネジアがひどい場合は、レボドパを減量することもあります。また幻視などの精神症状や生活に支障が出る程度の強い眠気やひどい腰曲がりなどがある場合、アゴニストを減量・中止することもあります。
- 開始当初から効果がはっきりしていない薬 レボドパやアゴニスト以外の薬で、「この薬は本当に効いているのかな?」と思うことがあります。そういいう場合、患者さんと相談して減量・中止することがあります。
上記の理由で薬を減らしたり中止する場合、症状が悪化することはあっても逆に良くなることはありません。それでも減らさざるを得ない理由があるということです。
20年くらい前ですが、レボドパを服用するとかえってパーキンソン病が進行するという学説がありました。実際にこの学説を基に「レボドパは止めなさい」と主張する本を書いていた医師もいます(その人の専門は脳神経ではなく免疫)。その後、実際にレボドパを早期から服用した人と服用を待ってもらって遅くから開始した人を比較する研究が行われ、レボドパが病気の進行を早める事は無いということで現在は決着しています。
パーキンソン病の本質は脳の中のドパミンが不足する病気であり、レボドパやアゴニストはこのドパミンを補うための薬です。特に発症後3-5年以上経過した人で不用意にレボドパやアゴニストを急に減らしたり中止すると、急激に悪化しまったく動けなくなることがあります(場合によっては命にかかわることも)。逆に発症して3年以内の人であれば、レボドパを減らしたり1-2回飲み忘れても取り返しが付かないほど悪くなることは希です。
残念ながら病気が非常に進行して、これ以上悪くなりようがないというような方(多くの場合、嚥下も困難な状態)ではレボドパやアゴニストを減らしてもあまり変化はありません。
パーキンソン病に悪影響を与える抗精神病薬などの薬は中止によって症状が改善することはあると思いますが、減らさないといけないような副作用もないのにパーキンソン病の薬を減量してかえって病気が良くなった人は見たことがありません。
誰しも薬が多いのは嫌だと思いますし、できるだけ少ない薬で症状をコントロールすることが理想ですが、専門医ではない人の言うことを聞いて薬を減らすことは危険です。