パーキンソン病の睡眠障害
パーキンソン病では様々な睡眠障害が見られます。その代表的なもののついて書きました。
不眠 布団に入ってもなかなか眠れない、夜中に何度も目が覚めてしまう、目が覚めるとその後眠れないなど多くのパーキンソン病患者さんが不眠(睡眠障害)を訴えます。こうした睡眠障害の原因の中には、下記のようなレム睡眠時行動障害やむずむず脚症候群が原因となっている場合がありますし、また頻尿といった排尿障害のため頻回に覚醒してしまうこともあります。ただ、こうした明らかな原因がなくても眠れない、眠りが浅いという方も大勢います。以前は睡眠導入剤としてベンゾジアゼピン系という薬がよく用いられましたが、こうした薬はふらつきが起きやすかったり、依存性の問題があり最近は第一選択として用いることはあまりありません。現在は睡眠導入剤が必要な場合は、まずオレキシン受容体拮抗薬と呼ばれるスボレキサント、レンボレキサントという薬を処方する事が多いと思います。海外の教科書ではメラトニンを推奨していますが日本ではメラトニンは使えないため、代わりにメラトニン受容体に作用するラメルテオンという薬があります。
日中の眠気(傾眠) パーキンソン病では日中の眠気を感じる人が多く、特に食後や、つまらない会議で人の話を聞いたり(!)と普通でも眠くなるような状況で、さらに過度の眠気を感じる人が多いようです。日中の眠気は睡眠不足だったり、睡眠が浅いことと関係がありますがそれだけでもないようです。プラミペキソールなどの非麦角系と呼ばれるドパミンアゴニストを服用している人は、より強い眠気を感じます。仕事で眠気を感じると困る場合はこうした薬は使わずレボドパ中心にする事があります。MAO-B阻害薬のセレギリンは眠気を抑える効果があると言われており、使ってみることはありますが実際には患者さんから「眠気が減った」と言われることはあまりありません。モダフィニルという眠気を抑える薬がありますが、日本ではパーキンソン病の眠気に対しては保険適応外ですので、あまり使用されていません。
レム睡眠時行動障害 パーキンソン病では発症前から大声で寝言を言ったり、睡眠中に手足を振り回して一緒に寝ている人を殴ってしまったり周囲の家具に手足をぶつけたりする事があります。このような症状はレム睡眠の間に起きるため、レム睡眠時行動障害と呼ばれており、鮮明な夢を見ることと関係しています。本人は覚えていなくても、周囲(家族)が非常に困る事があります。パーキンソン病治療薬のMAOB阻害薬や抗うつ薬などで悪化する事があるので、こうした薬を服用しているのであれば(可能なら)中止します。治療薬としてよく使われるのは、クロナゼパム、ラメルテオンなどです。パーキンソン病の運動症状(振戦や歩行障害)に先行して発症することがあるので、パーキンソン病の発症の予測に使えるのではないかと研究されています。
むずむず脚症候群(restless leg syndrome) 布団に入ると、脚がむずむずしてじっとしていられず脚を動かしたくなる症状です。パーキンソン病以外の方でも見られることが珍しくありませんが、これがあったから将来パーキンソン病を発症する可能性が高いという事はありません。体内の鉄の不足が原因になることがあり、血液検査で体内の貯蔵鉄が少ない場合は鉄剤を補充します。貯蔵鉄が正常だったり、鉄剤が無効の場合はロチゴチンパッチやプラミペキソールといったドパミンアゴニストを使用します。また抗コリン薬(トリヘキシフェニジル)やアレルギー性鼻炎に使われる抗ヒスタミン薬はむずむず脚症候群を悪化させることがあり、可能なら中止します。