コレステロールの薬の副作用、血液検査の必要性について
悪玉コレステロールを下げる薬は、血圧の薬と並んで最も処方されている薬の1つだと思います。現在使われているコレステロールを下げる薬のほとんどが、スタチン系と呼ばれる薬物です。このスタチン系の薬物を最初に開発したのは日本の製薬会社ですが、それまでの薬ではコレステロール値はあまり下がらなかったため画期的な薬でした。現在、心筋梗塞を発症した方、狭心症の方、他にも動脈硬化リスクが高い多くの人がこのスタチン系の薬を服用しています。
スタチン系の薬の有名な副作用に「横紋筋融解症」があります。簡単に言うと筋肉に傷がついて壊れる病気です。処方される際には医師や薬剤師から「急に筋肉痛が起きたら報告してください」と注意されますし、副作用の確認のため定期的に血液検査をおこなう医師も多いと思います。筋肉が過剰に壊れると血液検査のCK(CPK)という値が急上昇します。
では、この横紋筋融解症はどの位の頻度で起きるのでしょうか?
薬の添付文書には正確な頻度は書かれていません。英語の医学教科書であるUpToDateには以下のように書かれています。
頻度:治験では、プラセボに比較してスタチンを服用している人は、筋肉痛の訴えが多いと報告されています。ただ、血液検査でCK(CPK)の上昇があり筋肉の壊死が疑われるような方は全体の1%未満でした。具体的にはCPKが1000近くかそれ以上に上昇した方ということになります。また25万人を対象とした調査では、コレステロールを下げる薬を服用していて横紋筋融解症のため入院した人は10万人あたり0.44人でした。
どういう人に起きやすいか?:もともと神経筋疾患がある人、アルコール多飲者、甲状腺機能低下症という病気を持っている人などです。中性脂肪を下げる薬、カルシウム拮抗薬、免疫抑制剤を服用している人も起こしやすいようです。またスタチン服用後に急に激しい運動をするとCPKが急に上昇することがありますが、症状としてはごく軽度のことがほとんどです。
定期的な血液検査は必要か?:アメリカで1014名のスタチン系の薬を服用している患者を対象にした血液検査を調べたところ、スタチンが原因でCKが上昇したと考えられた人は2名だけでした。この調査を報告した研究者やUpToDateでは、スタチン系の薬を服用している人が副作用のチェックのため定期的な血液検査をおこなう必要は無いとしています。またCKは薬の副作用だけではなく、様々な理由で上昇します。フルマラソンを走ると1000以上になることもありますし、高齢の方が転んで打撲をすると結構上昇することがあります。筋肉痛などの症状がない人に定期的に血液検査をしてCKをチェックすると、値が少し上昇した時に副作用と勘違いして薬が中止される可能性があります。スタチン系の薬は心筋梗塞を発症した人には必須の薬なので、血液検査の誤った解釈により薬が中止されると患者さんが不利益を被ることになります。また悪玉コレステロール(LDL-C)の値も、いったん薬で下がると薬を続けている限りは再度上昇することは希です。ですから、薬の効果の確認のためにも頻回の血液検査は不要です。