パーキンソン病と便秘
パーキンソン病に便秘はほぼ必発と言えると思います。私が診てきた患者さんでも7-8割の方に便秘がありますし、半分以上の人がパーキンソン病を発症する前から便秘があります。
私が医師になったばかりの頃でも、パーキンソン病に便秘を合併することが多く、かつパーキンソン病の発症に先行して便秘が見られることは知られていました。当時の医師の中には、「便秘になると体の中に何か悪い毒素のようなものが溜まって、それがパーキンソン病の原因になっているのではないか」という仮説を立てる人もいました。しかし、その後の研究で、パーキンソン病を引き起こすα-シヌクレインという蛋白質がまず腸管を動かす神経に蓄積し便秘を引き起こした後に、さらに脳内に溜まりパーキンソン病を発症させるということが分かっています(この仮説も完全に正しいと証明されたわけではありません)。
パーキンソン病で良く使われる下剤に酸化マグネシウムがあります。酸化マグネシウムという名称以外にもマグミットやカマグという名前のこともあります。ただ、この酸化マグネシウムをパーキンソン病の治療薬であるレボドパ配合剤と一緒に服用するとレボドパの吸収が低下するという研究報告があり、気にされる方もいます。
私自身は、酸化マグネシウムをレボドパと一緒に服用するようになったから急に薬の効果が落ちたという人を診た経験はありません。気になる場合は、どちらかを食前に他方を食後に服用すれば問題ないと思います。酸化マグネシウムは細かい量の調節がしやすく、多くのパーキンソン病患者さんの便秘は酸化マグネシウムでコントロールできています。
最近、アミティーザ、リンゼス、グーフィスといった新しい便秘薬が使えるようになりました。私もパーキンソン病患者さんに使ってみたことはありますが、あまりうまく行きませんでした。効果が乏しいか、効き過ぎて下痢をする事が多かったです。ただ、酸化マグネシウムなど既存の便秘薬が効果不十分だったり、腎機能障害があり酸化マグネシウムが使いづらい方はこうした新しい便秘薬を試してみても良いと思います。
酸化マグネシウム以外には、大建中湯という漢方薬も効果がありますが、私の経験では効く人と効かない人の差がはっきり出る薬かなという印象です(大建中湯はイレウスといって腸管が麻痺したりして動かなくなった方に外科の先生がよく処方します)。
パーキンソン病が進行すると、便意を催してもすぐにトイレに行けなかったり、排泄に手助けが必要になることもあります。こうした方は、排便の時間(タイミング)をコントロールすることが必要で、思いもがけないときに便意を催すと大変困ることになります。このような場合では、まず少量の酸化マグネシウムを普段服用しておいて、排便をおこないたい時に浣腸やレシカルボン座薬という薬を使って出すという方法がとられることも多いです。
通常であれば2日に1回排便があれば良いと思いますし、進行期で体が不自由な方でしたら週に2回程度でもやむを得ない場合もあると思います。
便秘の治療に対する反応は個人差が大きいので、便秘で困っている方もいろいろと手探りでやってみるしかない部分があります。