パーキンソン病の原因(1)
パーキンソン病患者さんの脳を死後に調べると、黒質という部位の神経細胞が減っています。この神経細胞はドーパミンという物質を作っており、神経細胞が減ることにより脳の中のドーパミンが減少しています。このドーパミンが減少することが、パーキンソン病の原因と考えられています。しかし、なぜ黒質の神経細胞が減るのかは、現在もよく分かっていません。パーキンソン病は年をとるほど発症しやすくなることや、一部の患者さんでは遺伝子が原因であることより、患者自身が持つ発症要因があるのではないかと考えられています(内因子)。しかし同じ環境で生まれ育った双子の一方がパーキンソン病を発症しても、他方が発症するとは限りません。このことから、内因子だけではなく、外部から作用してパーキンソン病の発症を促す因子(外因子)もあるのではないかと考えられます。また、この外因子説が重要視されたのは、以下の理由からです。1977年に米国の学生が、麻薬を合成し自分に注射したところ、パーキンソン病そっくりの症状を発症しました。また彼は、希望する何人かの友達にも注射をした結果、その友達もパーキンソン病を発病してしまいました。調べたところ、この合成麻薬にはMPTPという成分が含まれており、このMPTPでパーキンソン病を発病した人の脳を調べると、実際のパーキンソン病患者さんと同じように、黒質の神経細胞が減っていました。現在からすると、「なんと大胆な(愚かな)行為」と思われるかもしれませんが、当時は1960年代から始まったヒッピー文化やベトナム戦争の影響で、学生が自分で麻薬を合成する時代的な背景があったようです(ここで、MPTPによりパーキンソン病を発症した人の動画を見ることができます)。このMPTPを注射したことによりパーキンソン病を発症したことが科学論文で報告されると、大きな反響がおこりました。つまり人為的に作った物質でパーキンソン病が発病するのなら、自然にパーキンソン病を発病しているように見える人たちも、実は外部からパーキンソン病を発症する物質を知らず知らずのうちに体内に取り込んで発症しているのではないかと考えられたからです。また、このMPTPにより動物を人為的にパーキンソン病にすることが可能になり、以後、MPTPによるパーキンソン病モデル動物は、パーキンソン病の研究や治療薬の開発に不可欠になりました。MPTPを作った学生も、当初の目的が悪いことでなかったならノーベル賞を受賞できたかもしれません。