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パーキンソン病の新しい検査法

[2024.06.11]

パーキンソン病の脳内にたまる蛋白質を調べる方法を日本の研究室が開発したことが、いろいろなメディアで報道されています。

パーキンソン病 異常なたんぱく質 患者の脳内で撮影成功と発表

パーキンソン病の原因物質、脳内の可視化に成功 治療法開発に期待

パーキンソン病患者さんの脳内にはα-シヌクレインという蛋白質が蓄積することが分かっており、この蛋白質が病気の原因であると考えられています。またα-シヌクレインはパーキンソン病以外にもレビー小体型認知症や多系統萎縮症という病気でも脳内に蓄積します。これらの病気の症状は異なる部分も多いのですが、それはα-シヌクレインが脳のどこに蓄積するかによって病状が変わるからだと考えられています。

今回、研究者達はα-シヌクレインに特異的に結合する物質を開発し、それを用いることによりPETという検査法で脳内のα-シヌクレインを「見る」ことに成功しました。

この検査はどのくらいの意味があるのでしょうか?

実は、こうした病気の原因となる蛋白質を可視化する検査はアルツハイマー病で実用化されています。

アルツハイマー病では、アミロイドという物質が脳内にたまることが分かっています。10年以上前にやはりPETという検査法で脳内のアミロイドを見ることができるようになりました。その結果、

アルツハイマー病と臨床的に診断されている患者さんの3割は脳内にアミロイドがたまっておらず診断が間違っている(診断が確実になった)

アルツハイマー病では症状が発症するかなり前から脳内にアミロイドがたまり始める(病気の進行をより詳しく把握できるようになった)

記憶力に問題が無い健常者でも、脳にアミロイドがたまっている人は将来アルツハイマー病を発症する可能性が高い(同上)

アミロイドを減らす薬を開発する過程で、薬が本当に脳内のアミロイドを減らしているかどうか確認できるようになった(治療薬の開発に役立つ)

といった多くのことがわかってきました。ただアミロイドPETは、アミロイドを減らすレカネマブという薬が認可されるまでは保険適用はありませんでした。アミロイドを減らす治療がない状態で脳内にアミロイドがたまっていることが分かっても患者さんにメリットがないためです。現在は、アミロイドPETで検査をしてレカネマブが使用できる患者さんを選んでいます。

今回の研究では、パーキンソン病やレビー小体型認知症患者の脳をPETで検査すると、α-シヌクレインがたまっているはずの黒質という部分に集積が認められました。一方、健常被験者では集積はないか、ごくわずかです。また多系統萎縮症の患者では黒質ではなく被殻という部分に集積を認めました。これも、実際に亡くなった患者さんの脳を調べた場合の結果と一致します。

脳内にα-シヌクレインがたまっているかどうかが分かると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

まず、パーキンソン病の診断がより確実になります。患者さんを診ていると2割くらいの人は「本当にパーキンソン病かな?」と疑問に思うことがあります。こうした患者さんの診断がより確実になります。ただ、パーキンソン病ではないと分かった方の多くは、多系統萎縮症や進行性核上性麻痺といったより難しい神経難病であることが多く、診断が確実になるからといって患者本人にどこまでメリットがあるかは不明です。

α-シヌクレインを減らす薬を開発する上で薬の効果をよりはっきりとした形で捉えることができます。つまり治療薬の開発に役立つ可能性が高いです。ただ、α-シヌクレインを減らす薬については、今のところ多くの人が研究していますが目処はまったくたっていません。少なくともアミロイドを減らす薬(レカネマブ)と同じやり方では難しそうだということが分かっています。これはアミロイドが細胞外に存在する蛋白であるのに対してα-シヌクレインは細胞内に存在するためだと考えられます。

仮定の話ですが、パーキンソン病の発症や進行を早期に予防できる薬ができれば、このPET検査を用いて発症前の患者さんを見つけて治療ができるようになるかもしれません。

今回の研究はすごく重要なものですが、だからといってすぐにパーキンソン病の治療薬が作られる訳ではありません。神経難病の治療薬の開発は多くの研究、知見が少しずつ積み上がって実現されていくからです。

 

 

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