オミクロン変異に対する抗ウィルス薬の効果
新型コロナウイルスの出現当時に比べると、現在は抗ウィルス薬など様々な治療法が出てきて患者の致死率も当初に比べると非常に低下しており、当初は6%と高率でしたが現在は0.2%程度まで低下しています。
薬も最初は点滴薬しかなく、クリニックで使うのはハードルが高かったのですが、現在はラゲブリオ、パキロビッドパックという2種類の内服薬が処方できるようになっています。この2つの薬はウィルスの増殖を抑えることにより重症化を予防するための薬です。ただし全ての患者さんに投与できる訳ではありません。高齢者や重い持病のある人など、重症化リスクが高い人に限定されています。
一方、オミクロン変異が優勢になってからは、そもそもコロナウイルスで肺炎を起こす人は少なく、持病(基礎疾患)で亡くなる人が多くなっています。先日医師会の講習会に出た際に、荻窪病院の感染症担当の先生も、6波以降コロナウイルスによる肺炎はほとんど見なくなったとおっしゃっていました。では、現在のオミクロン変異に対してもラゲブリオやパキロビッドパックは重症化を予防できるのでしょうか?持病の悪化が主たる死因であればいくらウィルスを抑える薬を投与しても効果はないのでは?と思い、調べてみました。
イスラエルからの報告ですが、オミクロン変異流行中にパキロビッドパックを投与した人とそうでない人を比較したところ、65歳以上では、患者が入院した割合は投与された人が投与されなかった人の1/3程度に、死亡率も1/5程度に減っていましたが、64歳以下ではパキロビッドパックを投与された人、されなかった人の間で差はありませんでした。
もう一つの薬、ラゲブリオでもポーランドから報告があり、やはりラゲブリオで治療されたグループは死亡率は半分強まで減っており、この傾向は80歳以上でより明らかでした。
従来からパキロビッドパックの方が効果が高いと言われてきました。異なる国、グループからの報告なので一概に比較は出来ませんがパキロビッドパックの方がオミクロン変異に対しても効果があるようです。
ただし、こうした新薬は非常に高価で、ラゲブリオは最近になって薬価が決まりましたが5日間の服用で約9万4千円になります。パキロビッドパックはまだ薬価が決まっていませんが、おそらく同等かそれ以上でしょう。現在は国の方針で新型コロナウイルス感染症に関する検査、治療費は国が負担していますので、患者負担はゼロです。ただし、今後ウィズコロナ、つまりコロナも特別視しないでおきましょうということになれば段階的に公費対象ではなくなる可能性が高いと思いますが、だからといって急に薬価が下がるとは考えにくいです(塩野義製薬がなりふり構わずコロナの新薬を承認させたいというのも、コロナの薬価が非常に高く設定されていること、公費で処方されなくなると処方数にブレーキがかかってしまうということ等が関係しているのでしょう)。
今後は、こうした薬の適応をさらに絞っていくことが必要になると思います。例えば、糖尿病は重症化の危険因子とされていますが、糖尿病といってもピンキリです。食事療法だけの人のいれば、重度の糖尿病の方もいます。私案ですが、65歳以上、あるいは64歳以下で1つ以上の強い危険因子をもつ、あるいは2つ以上のそれほど強くない危険因子をもつような人を公費の対象として残すとかでしょうか(年齢はもう少し上で区切っても良いとは思います)。
(追記)2022年12月にイギリスから発表された報告(PMID: 36566761)では、ワクチン接種済みの患者に対して、ラゲブリオを投与した群とそうでない群の間では入院、死亡率に差はないが、症状の回復スピードはラゲブリオ投与群の方が早かったようです。つまり現在のオミクロン変異流行下でかつワクチンを接種していれば、ラゲブリオの重症予防効果はないというこです。これはラゲブリオが開発された時に流行していたアルファ、デルタ変異に比べてオミクロン変異が重症化しにくいことと、ワクチンによる重症予防効果が相まって、ラゲブリオの重症予防効果が見えなくなってしまったということだと思います。回復を早める効果はあるので、薬として意味が無いわけではありませんがラゲブリオの薬価は1クール(5日間)の投与で9万円なので、いわゆる風邪症状(熱、咳、咽頭痛など)の回復を早めるだけの薬としては高価すぎるように思います。この点は、薬価は決まっていませんがゾコーバも同じ問題があります。