パーキンソン病患者さんの「見えにくい」という訴え
パーキンソン病の患者さんを診察していると、時々「ものが見えにくい」という訴えを聞くことがあります。
具体的には「焦点が合わない、ものが二重に見える」という内容が一番多いようです。
パーキンソン病患者さんの視覚症状については、一般的な医学書には幻視以外にはあまり書かれてはいませんが、私が持っているパーキンソン病の教科書には、パーキンソン病における視覚障害について一章をさいて記載されています。
この本によれば、
パーキンソン病では、はっきり見えない、輪郭がぼやけて見える、視野が欠ける(狭くなる)、瞳孔異常など様々な症状が起こりうると書かれています。
まず、パーキンソン病ではまばたきが減るためドライアイになりやすくなります。患者さんの網膜にも形態変化が起こることがあります。これはドパミンの欠乏など、パーキンソン病の病態自体が関係しているようです。
また薬の副作用で視覚障害が起きることがあります。振戦のためによく使われるトリヘキシフェニジル(アーテン)による瞳孔の散大やドライアイが有名ですが、レボドパやMAO-B阻害薬でも視覚障害をおこすことがあり得ます。
人間は、眼から入った情報を脳で処理することにより物が見えています。パーキンソン病では、この脳の中の視覚処理をおこなう部分にも影響が出ることが分かっています。
パーキンソン病の治療薬を長年服用していると幻覚が出やすくなります。薬の副作用と言えますが、パーキンソン病ではない方がパーキンソン病の治療薬を服用していても、幻覚が出ることはほとんどありません。パーキンソン病では、脳の中の視覚処理をおこなう部分にも変化が起きているために、薬で幻覚が出やすくなっているのだと考えられます。
パーキンソン病患者さんが、見えにくさを感じた場合は、眼科での診察も必要です。また薬の追加や増量の後に見えにくさが出ているのであれば、薬の副作用を考えます。
幻視については、軽度であればそのまま経過をみることもありますが、あまり程度がひどければ薬の減量、中止が必要です。
眼科の診察でも異常が無く、薬の副作用も考えにくい場合はパーキンソン病に関連したものであれば経験上、改善は難しいことが多いと思います。