多系統萎縮に対する新たな治療法について
2023年4月14日付けで、東京大学が多系統萎縮症に対する新たな治療法を発見したと各社から報道されています。
難病「多系統萎縮症」に一定の効果 進行抑える世界初の薬開発に一歩
多系統萎縮証は神経難病の1つで、パーキンソン病よりも発症頻度は低い病気ですが、現時点ではほとんど治療法がない難病です。
50歳以降に発病することが多く、症状は、ふらつき、歩行障害、動作緩慢、しゃべりにくさ、立ちくらみ、排尿障害など多岐にわたります。
小脳萎縮が目立つ小脳型とパーキンソン病症状が主症状であるパーキンソン病型の2つに分類されます。昔は、この2つは別の病気と考えられていましたが最近では同一の病気であることが分かっています。
今回、東大が発表したのはコエンザイムQ10という物質を投与するという治療法です。コエンザイムQ10自体は以前からサプリメントとして市販されており、新しい薬を作ったわけではありませんが、ただその投与量が市販のサプリメントの10倍くらいの高用量になっています。コエンザイムQ10の役割ですが、細胞内のミトコンドリアという場所で細部の生存、活動に必要なエネルギーの産生に重要な役割を果たしており、また、酸化ストレスから細胞を防御する働きがあると考えられています。多系統萎縮症に限らず、他のパーキンソン病などの神経難病でも実は、細胞内のミトコンドリア機能の低下や酸化ストレスが病気の発症に関与していると考えられています。
これまでに今回の研究結果を発表したチームは、コエンザイムQの遺伝子に変異があると多系統萎縮を発症しやすくなることや、この遺伝子変異がない患者さんでも体内のコエンザイムQ10が減っていることを報告しています。こうした研究結果から、コエンザイムQ10を患者さんに投与する計画が立てられたわけです。
具体的な投与法ですが、コエンザイムQ10はカネカという会社のものを使用しており、1日Ⅰ回200mgから開始し2週間毎に漸増し最終的に1日Ⅰ回1500mgまで増量しています。サプリメントとして売られているコエンザイムQ10は1日の服用量が100-200mgになっていますので、その7-15倍の量を投与していることになります。48週(1年間)の投与でコエンザイムQ10投与群は偽薬(プラセボ群)に比べておよそ30%程度の進行抑制があったようです。
ただし、注意が必要なのは決して症状が改善した訳ではないということです。また、評価尺度を用いた30%の進行抑制というのが患者さんの実感としてどの程度なのかは論文だけでは分かりません。おそらく患者さん自身が進行抑制効果を感じるかどうか微妙なレベルなのではないかと思います。
これまで、こうした二重盲検試験で効果が明らかになった薬は多系統萎縮ではありませんでしたので、画期的な研究であることは間違いありませんし、副作用も実薬群とプラセボ群で差はなかったようなので実用化が期待されます。
注意:この研究では通常サプリメントとして使用される量の10倍前後のコエンザイムQ10を投与しています。まだ安全性が確実になったわけではないので、ご自身の判断で大量のコエンザイムQ10を服用することはしないでください。