京都大学が発表したALS治療薬について
最近、京都大学iPS研究所から、ボスチニブという白血病の薬を筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんに投与したところ、約半数の患者で進行が抑制されたというニュースが報じられました。
薬剤の治験でALS進行抑制か”京大などのグループ発表
ALSは体の中にある運動ニューロンという神経細胞が徐々に減っていき、全身の筋肉が衰え動けなくなる難病中の難病です。現在、2種類の薬がありどちらも進行を遅くする効果がありますが、実際に投与しても実感できるほどの効果が出る方は希でした。
今回のボスチニブは、少数例の投与ですがこれまでの薬と比べ遙かに高い進行抑制効果があるように見えます。詳細は今後、学会で報告されるということなのでそれを待ちたいと思いますが、ではiPS細胞を用いて薬を発見するというのはどういうことなのでしょうか?
病気に効く薬を発見する場合、多くの化合物や既存の薬の中から候補薬を見つける必要があります。その数は膨大ですので、一々患者さんに投与するわけにはいきません。もっと簡単な方法で有望な候補をふるいにかける必要があります。この作業をスクリーニングと呼びます。これまでスクリーニングとしては、動物モデルを使うことが一般的でした。例えばALSを発病するように遺伝子操作したマウスに化合物や薬を投与し、効果のありそうなものを絞っていくわけです。ただ、これも決して簡単な作業ではありません。そこで近年注目されているのがiPS細胞を用いたスクリーニングです。
ここからはALSに限定して話を進めますが、ALS患者さんの中には先天的な遺伝子の異常でALSを発症する人がいます。このようなALSを家族性ALSと呼びます。遺伝子は親から子供へ受け継がれるので、家族性ALSの場合は、同じ家系内に複数の患者さんが見られることもあります。これに対して、先天的な遺伝子異常がなく発症するALSを孤発性ALSと呼びます。家族性ALSにはいくつかのタイプがありますが、その中には孤発性ALSとほとんど同じように見えるものもあります。このような家族性ALSの患者さんの皮膚の細胞などからiPS細胞を作成します。次にこのiPS細胞を運動ニューロンという細胞に変化させると、この患者由来の運動ニューロンはやはり細胞内に様々な病的変化がおきて細胞が最後には死んでしまうことが分かりました。つまり、この患者由来の運動ニューロンの中にALSという病態が再現されているわけです。であれば、この患者由来の運動ニューロンに様々な候補薬を加えて細胞死を防ぐことができるものを見つければ、もっと簡単でかつ大量にスクリーニングができることになります。
この方法を用いて、まず慶應大学の岡野先生の研究室が候補薬をスクリーニングし、パーキンソン病治療薬であるロピニロールに可能性があることを発見しました。その後、患者さんを対象とした治験をおこないロピニロールが実際にALSの進行を遅らせることを発表しましています。
iPS細胞で探したALS薬の候補、病気の進行遅らせる
今回の京大からの発表も、あらかじめiPS細胞由来の運動ニューロンを用いたスクリーニングでボスチニブが治療候補薬であることを発見し、患者さんを対象とした治験をおこなっています。対象者は、多少不自由があっても日常生活が自立している軽症の方が対象です。観察期間もまだ短いため、進行抑制効果がどの程度続くのかも現時点では不明です。
いずれにせよ、こうした新しい技術を用いて既存の薬の中から難病に効果がある薬を見つけられるようになったということは素晴らしいことです。