ジスキネジアとレボドパ
今回は少し専門的な内容です。
パーキンソン病患者さんの多くがレボドパ配合剤を服用していますし、病状、経過によって少しずつ量が増えていくことがほとんどです。ただレボドパの量をどんどん増やすことは患者だけでなく医師もためらいます。その最大の理由が、レボドパを長期間服用しているとジスキネジアという不随意運動が副作用として出現するためです。ジスキネジアがいったん出現すると自然に消えることはありませんし、程度がひどくなればレボドパの増量はできなくなり場合によっては減量する必要があります。すごく簡単に言うと、「ジスキネジアの出現=薬物治療の限界が近い」ということになります。もちろん、レボドパを増量できなくてもアゴニストがありますし、アマンタジンを併用すればある程度の期間はジスキネジアを抑えることはできます。しかし、レボドパがパーキンソン病の薬物治療の根幹であることは間違いありません。
ジスキネジアの出現を正確に予測することはできませんが、多くの医師はレボドパの1日服用量×服用期間が一定に達すると出現すると漠然と考えています。つまり服用量を少なく抑えれば、ジスキネジアの出現をより先に延ばすことができるという考えです。とはいえ、患者さんが困っているのにレボドパをケチることはできませんから、レボドパの量がある程度になってくると、どのようなタイミングで増やすかは悩ましい問題になります。
しかし、上記の仮説は本当に正しいのでしょうか?ジスキネジアはレボドパの量と関係なく、来るべき時が来れば出現するのだという考えもあります。多くのレボドパを服用している人の方が早く出現するように見えますが、そもそも平均よりも早いスピードでレボドパを増やさないといけない人は病気の進行自体が平均より早いためにジスキネジアも早く出現するのだという考えです。
例えば、パーキンソン病ではなくパーキンソン症候群の患者にレボドパを長年投与していてもジスキネジアはおきません。これは、ジスキネジアが単なる薬の副作用ではなくパーキンソン病という病気の症状の一部であることを意味しています。
以前、私が診ていた患者さんでwearing-offがありレボドパを1日800-900mg服用していました。もともと他院でそれだけの量を処方されており、その後に私の外来に来るようになったのですが、その方はoffがあるといっても非常に軽度で外出も問題なくできますし、offになると少し痛みが出る程度でした。普通ならこの程度の症状でここまでレボドパを増量することはないと思うのですが、本人も納得されておりそのままの量で経過をみていましたが、結局3年程度経過してもジスキネジアは全く見られませんでした(遠方に転居されたため、その後の経過はわかりません)。つまり、こうした軽い方であればレボドパを増やしてもジスキネジアは起きにくいのかもしれません。
いずれにせよ、ジスキネジアをどうすれば起きないようにできるかということは十分には分かっていません。私自身の経験からいえば、やはり生活や仕事に明らかな支障があれば躊躇せずレボドパを増量した方がよいと思います。