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パーキンソン病に対するiPS細胞移植

[2025.04.17]

京都大学が主導しておこなってきたパーキンソン病に対するiPS細胞移植の治験結果が、本日Natureという科学雑誌に発表され安全性と一定の効果が確認されました。(パーキンソン病に対するiPS細胞由来ドーパミン作動性細胞の第I/II相試験)。

この治験では、iPS細胞から作成したドーパミン産生能力がある細胞を作成し、7人の患者(50-69歳)の脳に移植し、その後2年間経過を観察しています。

2年経過しても、移植した細胞は十分な数が生存しており脳内に定着していると考えられます。今回の治療のように、外部からドパミンを産生する細胞を移植した場合、過剰なドパミンによる不随意運動(ジスキネジア)の発生が懸念されます。今回の結果では全例でジスキネジアは増加したものの、移植した細胞が原因のジスキネジアではないようです。iPS細胞は以前より途中で癌細胞に変化する可能性があると言われていますが、移植した細胞が腫瘍化した徴候も確認できませんでした(iPSの癌化については、改良が進んできており現在はその可能性は非常に少なくなっているようです)。

効果ですが、参加者7名中6名が有効性評価を受けています(1名は安全性評価のみ)。オフ時間の状態が6名中4名で、オン時間の状態が6名中5名で改善しています。移植した細胞の数は少ない人と多い人の2つに分けられていますが、効果は移植した細胞数に関係していません。パーキンソン病では症状の程度をヤール分類で表記しますが、1名がこのヤール分類で2段階、3名が1段階改善しています(2段階の改善は著効と言えるでしょう)。ただ、6名中1名はまったく効果が無かったようです。

2018年に開始されたこの医師主導の治験が、症例数は少ないとは言え安全性と一定の効果を確認できたことはパーキンソン病、iPS細胞の治療の歴史の中で1つのマイルストーンになることだと思います。治験中には世界的なコロナ禍もあり、治験を担当された医師の方々や患者さん達は本当に大変だったと思います。

山中先生がiPS細胞を発見されてからのこの20年間、多くの人達がiPS細胞を用いた治療を試みてきましたが、いまだ十分は結果は得られておらず保険適用されたものもありません。科学者の中からもiPS細胞を用いた治療の実現性や、国の研究資金をiPS細胞分野に多く振り分けることに対して疑問を呈する人達も出てきました。しかし最近になってiPS細胞を用いた脊髄や心筋の治験で良い結果が報告されており、この治験結果が掲載されているNature誌にも、「日本は幹細胞治療へ大きな賭をしてきたが、その成果がもうすぐ得られるかもしれない」という記事を載せています。

今回の治験では、iPS細胞の作成に住友ファーマが協力しており、同社は今回の結果を基に移植用の細胞を製品として国に申請すると発表しています。

ただし今回の結果については、解釈に注意が必要な点もあります。

まず、参加者が非常に少なく今回の結果だけで確実な効果や安全性を言うことはできません。より多くの患者を対象とした試験が必要です。また効果がより長期に続くのかどうかも確認が必要です。例えば、脳深部電極刺激術(DBS)は術後、3-5年で効果が落ちていきます(病気の進行のため)。 

iPS細胞などの幹細胞治療はパーキンソン病を「治す」治療ではありません。あくまで薬物治療が限界にきた時の「次の一手」となる治療で、すでにあるDBSやLCIG(Lドパ持続経腸療法)と同列です。こうした幹細胞治療はドパミンを補充し運動症状の改善はできても、例えば便秘や頻尿、しばしば合併する認知症を治すことはできません。効果についても、今回の発表だけではDBSやLCIGを大きく越えるものではありません。

多くの時間と大勢の人の努力により、パーキンソン病の幹細胞治療がようやくスタートラインに立ったというのが現状だと思いますし、それは素晴らしいことですが、ゴールに向けてこれからまだまだすべきことがあるということです。

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