アルツハイマー病と易怒性
アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)の方は、些細なことで怒りっぽくなり、家族が驚いたり困惑することがあります。
では、なぜ怒りっぽくなるのでしょうか?
これは、患者さんがもつ不安感によるものと考えられています。
アルツハイマー病を発症すると、まず記憶力、特についさっきの記憶が保持できなくなります。私たちの意識、考えというのは、過去からの一貫した記憶の積み重ねに依るところが大きいのです。
例えば、何か用事があって2階に上がったのに、何をするために上がってきたのか一瞬忘れしてしまうような経験が誰にでも1度はあると思います。こんな時に「あれ、何だっけ?」と思うと同時に不安に駆られるはずです。
あるいは、知らない町で道に完全に迷ってしまった時、自分が向かっている方向がどちらの方向なのかも分からなくなった時、私たちは非常に不安になるはずです(最近はスマホがあるので、こうした経験は以前より減りましたが)。
アルツハイマー病の患者さんは、日々、こうした不安を抱えて生きています。そのため、周囲の言動に非常に神経質になっており、自分のちょっとした間違いを指摘されたりすると、すぐにかっとなることがあります。
ご家族にとってはなかなか気持ちの切り替えが難しいと思いますが、患者さんの易怒性はこうした不安感の裏返しであるということを心に留めておくことが大切です。
まず、周囲の人は、患者さんの間違いをいちいち指摘しないようにすることが大切です。特にご家族は、つい反射的に「そうじゃないよ」「何言ってるの」と言いがちです。また、繰り返し訂正することにより、患者さんの間違いが減るかのように錯覚してしまうこともありますが、残念ながら患者さんの怒りを助長するだけになります。
子供の時は、間違いを指摘することにより学習し間違いは減っていきます。これは脳が発達する過程だからです。認知症の方の場合は脳の機能が低下していく過程にあるため、いくら周囲が間違いを指摘しても学習して間違いが減ることはありません。
自分の親や伴侶が認知症によって間違ったことを言うのを黙って見ていることは非常に難しいことですが、そうしないと患者さんの怒りっぽさはますますひどくなり、さらに疎外感から物盗られ妄想や意欲の低下につなっがっていく可能性もあります。