パーキンソン症状を引き起こす薬、パーキンソン病の症状を悪化させる薬
薬の副作用でパーキンソン病のような症状が出てくることがあります。こうした病態は薬剤性パーキンソン症候群と言われており、薬剤の中止により改善が期待出来ます。
薬剤性パーキンソン症候群の原因となる薬はたくさんあるのですが、臨床の現場で良く遭遇する薬としては
プリンペラン(メトクロプラミド)、ノバミン(プロクロルペラジンマレイン酸)・・・通常、吐き気止めとして処方されます
ドグマチール(スルピリド)・・・食欲不振や活気、元気がない人に処方されます
セレネース(ハロペリドール)、コントミン・ウィンタミン(クロルプロマジン)などの抗精神病薬・・・幻覚、妄想といった精神症状に対して処方されます
トリプタノール(アミトリプチリン)・・・うつ病の薬
注 薬剤名は商品名(一般名)で表記しています。
これらの薬は脳内でドパミンの働きを阻害する作用があり、そのため脳内でドパミン不足の状態が引き起こされてしまいます。
上記の薬の中で、抗精神病薬や抗うつ薬はほとんどの場合は精神科医が処方しますし、精神科医はこうした薬がパーキンソン症状を引き起こす可能性があることは分かっていますので副作用があれば中止します。問題は上の2つです。プリンペラン、ノバミンは吐き気止めとして用いられる薬のため処方している医師も、この薬がパーキンソン症状を引き起こす可能性があることは無自覚な事が多く、結果的にパーキンソン症状が出てしまっても気づかずに投与が続けられることがあります。実は、ノバミンは吐き気止めだけではなく抗精神病薬の適応もあるためパーキンソン症状を引き起こす危険が高いのですが、ノバミン=強い吐き気止めくらいにしか思っていない医師もかなりいます。
ドグマチールは、脳神経内科医が遭遇する薬剤性パーキンソン症候群の原因としてもっとも頻度が多い薬だと思います。この薬も本来は抗精神病薬の適応のある薬なのですが、胃潰瘍に対しても適応があり抗うつ作用もあるため、精神科以外の医師では、この薬が副作用の少ない抗うつ薬、少し元気がなくて食欲のない人に使う薬と認識している人が多く結果的にこの薬で薬剤性パーキンソン症候群を発症してしまう人が多くなります。
こうした薬で薬剤性パーキンソン症候群を発症するのは高齢者が多いのですが、その理由として高齢者では加齢によりドパミンがそもそも減っているためにこうした薬の影響を受けやすい可能性があります。
また、ごく軽度でまだ診断されていないパーキンソン病患者さんがこうした薬を服用すれば、急激にパーキンソン症状が悪化してしまう可能性もあります。このような場合では薬を止めても症状は完全に戻らない可能性があります。
治療法ですが、まず原因となっている薬剤を中止します。中止後、症状の改善まで平均で7週間かかりますが中には1年以上かかったという報告があります(PMID6150149)。また症状が重い場合は、原因薬剤の中止だけでなくパーキンソン病治療薬のレボドパを使うこともあります。
パーキンソン病患者さんの中には、以前からこうした薬を服用しており「ずっと飲んでいるから大丈夫」と継続されている方もいます。こうした場合でも、止めるとパーキンソンの症状が少し良くなることはありますので、どうしても止められない薬でなければ一度中止を検討してみると良いと思います。