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麻疹(はしか)の流行について

[2026.03.23]

最近、ニュースや新聞などで「麻疹(ましん)」、いわゆる「はしか」の流行について耳にする機会が増えたのではないでしょうか。米国での集団感染や、日本国内でも海外からの持ち込みによる感染事例が報告されており、地域社会における警戒感が高まっています。

麻疹は単なる子供の病気ではなく、大人が感染すると重症化しやすく、命に関わることもある非常に恐ろしい感染症です。特に杉並区下井草の地域にお住まいのみなさんや、子育て世代、さらには持病をお持ちのご高齢の方々にとって、麻疹の正確な知識を持つことは自分と家族を守る第一歩となります。

 

世界と日本で再拡大する麻疹の脅威

現在、世界保健機関(WHO)は世界的な麻疹の流行に警鐘を鳴らしています。特に米国では、一時期は排除状態にあった麻疹が、ワクチン接種率の低下などを背景に再び拡大しており、大きな社会問題となっています。

2025年の米国における麻疹の感染拡大について

日本においても、かつては「はしかの輸出大国」と呼ばれた時期もありましたが、2015年にWHOから「麻疹排除状態」であるとの認定を受けました。しかし、これは国内にウイルスが常在していないことを意味するだけであり、海外からの流入による感染(輸入症例)は防ぎきれません。

近年、海外旅行の再開や入国制限の緩和に伴い、空港や公共交通機関、イベント会場などを通じて、日本国内でも感染が広がるリスクが急激に高まっています。杉並区や周辺地域のような人口密集地では、一度ウイルスが持ち込まれると、免疫を持たない人々の間で爆発的に広がる可能性が否定できません。

麻疹の並外れた感染力の強さについて

麻疹ウイルスの最大の特徴は、その圧倒的な感染力の強さにあります。一般的に感染症の強さを表す指標として「基本再生産数(1人の患者から何人に感染させるか)」がありますが、麻疹はこの数値が極めて高いことで知られています。

空気感染という防ぎにくさ

麻疹は、インフルエンザや新型コロナウイルスのような飛沫感染(しぶきによる感染)だけでなく、空気感染(飛沫核感染)をします。これは、ウイルスが空気中に長時間浮遊し、同じ空間にいるだけで感染する可能性があることを意味します。

マスクの着用や手洗いだけでは、麻疹ウイルスの侵入を完全に防ぐことは困難です。同じ部屋に数分間いただけでも、免疫がなければほぼ確実に感染すると言われるほど、その力は強烈です。

基本再生産数の比較

麻疹の感染力がどれほど特異であるか、他の感染症と比較してみましょう。

  • 麻疹・・12から18人
  • 百日咳・・12から17人
  • インフルエンザ・・1から3人
  • 新型コロナウイルス(初期株)・・2から3人

このように、麻疹はインフルエンザの数倍以上の感染力を持ち、集団の中での広がりが非常に速いのが特徴です。

麻疹の症状と経過

麻疹に感染すると、約10日から12日程度の潜伏期間を経て発症します。典型的な経過は以下の3つの段階に分かれます。

カタル期(発熱と風邪のような症状)

最初に出現するのは、38度前後の発熱、咳、鼻水、結膜炎(目の充血)などの症状です。この時期は風邪と見分けがつきにくいのですが、実は最も感染力が強い時期でもあります。

また、発疹が出る少し前に、頬の粘膜に「コプリック斑」と呼ばれる白い斑点が見られることがあり、これが診断の大きな決め手となります。

発疹期(高熱と全身の発疹)

一度熱が下がりかけた直後、再び39度以上の高熱が出るとともに、耳の後ろや首周りから赤い発疹が現れ、全身に広がります。発疹は次第に融合して大きくなり、肌が赤黒く見えるようになります。

この時期は肺炎や中耳炎などの合併症を起こしやすく、全身の倦怠感が非常に強くなります。

回復期

発熱が下がり、発疹も次第に消えていきます。発疹のあとには、しばらくの間、茶色っぽい色素沈着が残ることがあります。

しかし、熱が下がったからといって安心はできません。麻疹は一時的に免疫力を著しく低下させるため、他の細菌感染症などにかかりやすい状態が数週間続くことがあります。

重篤な後遺症と合併症

麻疹が恐ろしいのは、急性期の症状だけではありません。約30パーセントの確率で合併症を引き起こし、中には命を奪ったり、一生残る後遺症を招いたりするものがあります。

急性期の合併症

麻疹の合併症として頻度が高いものや重篤なものには以下があります。

  • 肺炎・・麻疹による直接的な肺炎や、細菌による二次感染が起こります。死亡原因として最も多いものです。
  • 中耳炎・・約10人に1人の割合で発生し、難聴の原因になることもあります。
  • 脳炎・・約1,000人に1人の割合で発生します。意識障害やけいれんを引き起こし、重大な後遺症を残すリスクがあります。実際に、私も麻疹の合併症で脳炎を発症し、知的障害などの後遺症が残った方を数人見たことがあります。

数年後に発症するSSPE(亜急性硬化性全脳炎)

このSSPEは、麻疹に感染してから数年から十数年という長い潜伏期間を経て、ゆっくりと脳の神経細胞が破壊されていく病気です。

発症すると、知能の低下や性格の変化、不随意運動(自分の意志とは無関係に体が動くこと)が現れ、最終的には寝たきりの状態になってしまいます。残念ながら、現時点でこの病気を完全に治す治療法は確立されていません。

麻疹にかかった数万人に1人の割合で発症するとされており、特に1歳未満などの乳幼児期に麻疹にかかった場合にリスクが高まると考えられています。麻疹を予防することは、将来の神経難病を防ぐことにもつながるのです。

抗体価検査とワクチンの重要性

麻疹には特効薬が存在しません。ウイルスを直接やっつける薬はなく、症状を和らげる「対症療法」が中心となります。そのため、ワクチンによる予防が唯一にして最強の対抗手段です。

自分の免疫を知るための抗体価検査

自分が麻疹に対して十分な免疫(抗体)を持っているかどうかは、血液検査で調べることができます。これを「抗体価検査」と呼びます。

特に、1970年代から1990年代生まれの方は、ワクチンの定期接種が1回のみであったり、制度の過渡期で接種率が低かったりするため、免疫が不十分な可能性があります。ご心配な方は抗体検査を受けて下さい(自費診療になります)。

MRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)の2回接種

現在は、1歳と小学校入学前の計2回、MRワクチンを接種することが標準となっています。2回接種することで、99パーセント以上の人が強固な免疫を獲得できると考えられています。

もし抗体価検査で免疫が不十分であるとわかった場合、大人であっても追加のワクチン接種が推奨されます。これは、周囲の大切な人や、まだワクチンを打てない赤ちゃんへの感染を防ぐ「社会的防衛」の意味でも非常に重要です。

麻疹に関するよくある質問

Q1. 子供の頃に一度はしかにかかったことがあれば、一生大丈夫ですか?

A1. 一度麻疹に自然感染すると、通常は「終生免疫」が得られ、二度とかかることはないとされています。しかし、記憶が曖昧な場合や、抗体価が時間の経過とともに低下している可能性もゼロではありません。不安な場合は抗体価検査を受けることをおすすめします。

Q2. 自分がワクチンを何回打ったか分かりません。どうすればいいですか?

A2. 母子手帳で確認するのが最も確実です。もし手帳を紛失している場合は、不明として扱い、抗体価検査を受けるか、あるいは検査をせずに1回追加接種を行っても医学的な問題はほとんどありません。

Q3. ワクチンの副作用が心配です。どのようなものがありますか?

A3. 主な副作用(副反応)としては、接種後数日から2週間以内に発熱や発疹が出ることがありますが、通常は数日で自然に回復します。重篤な反応は極めて稀ですが、当院では接種後の経過観察を適切に行い、万が一の際にも迅速に対応できる体制を整えています。

Q4. 杉並区では大人のワクチン接種に助成金はありますか?

A4. 自治体によって、風疹対策の一環としてMRワクチンの助成制度を設けている場合があります。条件(妊娠を希望する女性やその同居者など)があることが多いため、杉並区の公式ホームページを確認するか、当院へお問い合わせください。

Q5. 妊娠中に麻疹にかかるとどうなりますか?

A5. 妊娠中に麻疹に感染すると、流産や早産のリスクが高まることが報告されています。また、妊婦さんはワクチンを接種することができないため、周囲の家族がワクチンを接種してウイルスを持ち込まないようにすることが極めて重要です。

 

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