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骨粗鬆症の薬と歯科治療

[2022.09.24]

先日、骨粗鬆症の薬を処方している80代の女性から「通院している歯科医から、『あなたは残りの歯が少ないから、骨粗鬆症の薬は止めた方が良いですよ』と言われました」と相談されました。この方以外にも、時々患者さんから「こんど歯の治療をするので骨粗鬆症の薬は止めてほしい、と歯医者さんに言われました」などと言われることがあります。

骨粗鬆症の薬と歯の間にはどのような関係があるのでしょうか?

骨粗鬆症の薬の薬でもっともよく用いられる薬はビスホスホネート系薬剤という種類の薬です。

骨の代謝というのは、新しい骨が作られる「骨形成」と骨が壊されていく「骨吸収」の2つがあります。小児など成長期には骨形成のスピードの方が早く体が成長していきますが、50歳以上(特に女性)になると、骨吸収のスピードの方が早くなり骨の量が減っていきます。これが骨粗鬆症です。骨粗鬆症になると、太ももや背骨の骨折(大腿骨頚部骨折、脊椎圧迫骨折)をおこしやすくなり、骨折してしまうと治療をしても身体能力が大幅に低下したり痛みが残ったりします。ビスホスホネート系薬剤は、この骨吸収を抑えることにより骨の量が減ることを防ぐことによって、前述した骨折が減ることが分かっています。ビスホスホネート系薬剤はほとんどが飲み薬で、食後ではなく起床後すぐに服用する薬です。注射薬も1種類あります。

では、なぜ歯医者さんはこの薬を使われることを嫌がるのでしょうか?

実は、ビスホスホネート系薬剤を使用していると希にですが、歯を支えている顎の骨が壊死することがあり、これを(薬剤関連)顎骨壊死と言います。非常に希な現象ですが、ひとたび顎骨壊死が起きると治療が難しいため歯医者さんがこうした薬を嫌がる原因になっています。

では、ビスホスホネート系薬剤は本当に止めた方が良いのでしょうか?こうした薬剤関連顎骨壊死が報告されてから様々な研究が進み、現在はビスホスホネート系薬剤を中止する必要は無いと考えられています。

その理由ですが

ビスホスホネート系薬剤は一度服用すると体に長く残るため、歯科治療の直前に中止してもあまり意味が無い

日本の調査ですが、歯科治療前にビスホスホネート系薬剤を中止しても顎骨壊死の頻度は減らなかった

ビスホスホネート系薬剤を中止すると逆に、骨折の危険が増える(前述したように、一度骨折すると身体能力が大幅に低下することが多い)

中止による骨折のリスクと顎骨壊死が起こる頻度を天秤にかけると、骨折のリスクの方が上回るので中止する利点がない

そもそも、顎骨壊死は歯周病のような口の中の感染が引き金になって起こるのでビスホスホネート系薬剤を中止するより、こうした歯周病の治療をした方が現実的

です。またアメリカの歯科医師会も

顎骨壊死の発生頻度は多くても0.1%と非常に低いので、ビスホスホネート系薬剤を中止することによる骨折のリスクの方が大きく中止する必要は無い、という見解を示しています。

最初に書いた80代の女性は治療のためにステロイドという薬を服用していました。ステロイドを服用すると、特に女性では急激に骨量が低下しますので、こうしたビスホスホネート系薬剤が必須です。医師によっては、ビスホスホネート系薬剤以外の骨粗鬆症の薬に変更する人もいますが、ビスホスホネート系薬剤は骨折予防効果があるというデータが非常に豊富にある薬です。他の薬に変えると、効果が弱くなりやはり骨折のリスクが増加する可能性があります。

まとめると

骨粗鬆症がある人は治療が非常に重要です。骨粗鬆症の薬は安易に止めずに必ず主治医に相談してください。

顎骨壊死が気になる場合は、ビスホスホネート系薬剤を始める前に歯科医院を受診し歯周病や、その他治療が必要な歯を治療してから開始してください。

参考文献 「もう悩まない!骨粗鬆症診療」竹内靖博 著

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 著

 

Digital medical illustration depicting a hip fracture often seen in cases of osteoporosis; intracapsular (femoral neck) fracture: a fracture of the neck of the femur.

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