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富山大学のパーキンソン病に関する研究発表について

[2023.05.02]

最近、富山大学からパーキンソン病の発症メカニズムに関する研究発表がありました。

富山大学 パーキンソン病の発症メカニズム発見 新治療法に期待

何人かの患者さんから「これで治療法ができるんでしょうか?」と聞かれたので簡単に解説します。

この研究ではPARK9という遺伝子の働きを調べています。パーキンソン病患者さんの5-10%は遺伝子の異常によっておこることが分かっており、遺伝性パーキンソン病と呼ばれています。これに対して遺伝子の異常がなく発症する残りの90-95%の方を孤発性パーキンソン病と呼んでいます。パーキンソン病を引き起こす遺伝子は複数分かっており、PARK+数字で分類されており、今回研究の対処となったPARK9はその中の1つです。

遺伝性パーキンソン病と孤発性パーキンソン病は少し病状が異なることもありますし、そもそも遺伝性のパーキンソン病患者さんの割合は決して多くありませんが、それでもパーキンソン病を引き起こす遺伝子の働きを調べることにより、孤発性パーキンソン病の発症原因も明らかになる可能性があるため、多くの研究者が遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子を調べることによりパーキンソン病に共通する発症メカニズムを解明したいと考えています。

パーキンソン病患者さんの脳内ではαシヌクレインというたんぱく質が増えていることが分かっており、これがパーキンソン病発症の原因と考えられています。ただ、αシヌクレインが、なぜ増えるのか、増えたαシヌクレインがどのようにして神経細胞にダメージを与え病気を発症させるのかということは十分には解明されていません。

今回の研究では、PARK9という遺伝子の働きを邪魔するとαシヌクレインが増えることを発見しています。つまり、遺伝子変異によりPARK9という遺伝子の働きが低下することによりαシヌクレインが増える可能性があるということです。ただ、実際に患者さんの脳内で同じ事が起こっていることを証明した訳ではありません(今回の研究は培養細胞を使った人工的な環境でおこなっています)。この研究が治療につながるためには、PARK9遺伝子に異常をもつ患者さんの脳内で、同じ現象が起こっていることを証明する必要があります。それが証明できれば、PARK9遺伝子の変異をもつ患者さんについては、低下した遺伝子の働きを補完するような治療が見つかればαシヌクレインの増加を食い止められるかもしれません。

また、今回の研究結果が90-95%の孤発性パーキンソン病の治療につながるためには、このPARK9遺伝子が孤発性パーキンソン病の発症にも関与していることを証明する必要があり、それは現時点ではおそらく遠い遠い目標だと思います。

こうした研究がマスコミを通じで発表されると、必ず末尾に「この研究が根本的な治療や薬の開発につながる可能性がある」と書かれます。研究者は予算を獲得するために自分たちの研究に注目してもらわないといけません。もし、私が上記で書いたようなことだけを記事にしても、ほとんどの人は読まないでしょう。でも、末尾に「治療につながる可能性がある」と付け加えれば、注目度は上がりますし、記事を読んだ人も「よく分からないけど、すごい研究なんだな」と思います。

今回の研究は確かに重要な研究だと思いますが、それでもこうしてマスコミを通じて発表される基礎研究が10年以内の根本治療につながることはほとんどありません。「治療につながる可能性がある」というのは1%でも可能性があれば決して嘘を言っている訳ではありません。研究者からすれば、時間と労力をかけておこなった研究成果なのでできるだけアピールしたいという気持ちがあるのですが、こうした記事を見た患者さんがその都度、一抹の期待を抱いてしまうのは医療者として少し申し訳ない気分になります。

Scientist Works with Petri Dishes with Various Bacteria, Tissue and Blood Samples. Concept of Pharmaceutical Research for Antibiotics, Curing Disease with DNA Enhancing Drugs. Moving Close-up Macro

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