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パーキンソン病の治療 近いうちに期待出来ること、できないこと

[2023.02.23]

パーキンソン病は神経疾患の中では比較的新しい治療薬、治療法が出ている病気だと思います。もちろん、患者さんにとっては、それでも治療法の進歩は遅々としたものでありもっと良い治療を希望されていると思います。

ほとんどの患者さんが希望されるのは、パーキンソン病を根本的に治すような治療法(根治療法)や進行を遅くしたり止めたりするような治療法(疾患修飾薬)だと思いますが、こうした治療法については世界中で研究はされているものの具体的な見通しはまったくたっていません。もっとも有名なのがiPS細胞を使用した治療ですが、これは京都大学でおこなっている治験結果がまだ発表されていません。もし結果が有望なものであったとしても、多くの患者さんが一般的な治療として受けることができるのは、そこから最低でも5年、おそらく10年以上かかるのではないかと思います。自治医科大学がパーキンソン病に対する遺伝子治療を計画していますが、これもiPS細胞による治療と同様です。

パーキンソン病では脳や腸管内の神経細胞にαシヌクレインという蛋白質が蓄積することが分かっており、これが病気の原因だと考えられています。αシヌクレインを減らすことができれば病気の改善や進行予防につながる可能性があります。最近、αシヌクレインを減らす薬が開発され早期のパーキンソン病患者さんを対象に治験が行われましたが、残念ながら病気の進行を抑えることはできませんでした(PMID35921451)。

パーキンソン病では脳の中の黒質という場所の神経細胞が減っていきます。この黒質でドパミンを作っているため、ドパミンが減って様々な症状がでると考えられています。患者さんの黒質では、鉄が沈着して過剰になっていることがわかっており、これが黒質の神経細胞を減らす原因になっているのではないかとう仮説があります。そこでキレート剤といって、金属イオンを封じ込める薬を早期の患者さんに投与してみましたが、やはり進行を抑えることはできませんでした(PMID36449420)。

このように、根治療法、疾患修飾薬については、今のところ近いうちに実用化されそうなものはまだありません。

 

多くの患者さんは治療開始後3-5年はレボドパが非常に効きますし、多少の不自由さはあっても生活や仕事に大きな支障が出ることが少ないのですが、そこから先になるとレボドパの薬効が不安定になりウェアリングオフ現象や不随意運動(ジスキネジア)が出てきます。さらにこれらの現象が悪化していくと、10-15年で薬物療法の限界が見えてくるようになります。この限界をいかに克服するかが、治療法を開発する上で大きな目標になっています。

こうした薬物療法の限界に近づいたときに選択できる治療法としては、脳深部電極刺激術(DBS)、レボドパ・カルビドパ配合経腸用液(LCIG; デュオドーパ)、FUS(集束超音波治療)があります。また近いうちに、レボドパ・カルビドパ配合剤持続皮下注という治療法が保険適用される予定です。この治療は前述の3つの治療に比べれば比較的開始する敷居が低いようですが、世界に先駆けて日本で初めて認可される薬ですので未知数の部分が非常に大きいです。

レボドパの薬効が不安定になると、突然オフになり体が動かなくなることがあります。こうした場合、投与すると一時的にオンになるアポカイン注射薬という薬がありますが、注射製剤でデバイスが大きくあまり普及していません。海外ではアポモルフィン舌下投与フィルム製剤というものが認可されています。これは薬がフィルム状になっており口の中に入れればオブラートのように口の粘膜から吸収されるので、体がうまく動かない時でも使うことが容易になっていますので、近い将来に国内でも認可、販売されるのではないかと思います。

 

このようにパーキンソン病に対する治療法は、根治療法や疾患修飾薬は今のところ見通しが立っていませんが、中期以降の患者さんに対する治療法については新しいものが少しずつ出てきています。患者さんにとっては、開発の進みは遅くもどかしいかと思います。ただ癌のような病気ではパーキンソン病に比べさらに患者数は多く、治療法の開発に投入されている時間やお金はパーキンソン病よりもずっと莫大です。しかし、その治療の歴史は途中で大きなブレークスルーはいくつかあったものの段階的なものですし、ある日全ての癌が急に治すことが出来るようになったわけではなく癌患者の生存率は少しずつ改善しているというのが現状だと思います。

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