メニュー

てんかんにおける突然死の予防

[2020.02.10]
てんかんにおける突然死の予防
JAMA Neurologyの記事からの翻訳です。
てんかん患者は、てんかんやその治療が間接的に命に関わることがありますが、てんかんそのものによる生命の危険にもさらされています。てんかん患者の 突然死は一般人口のそれと比べ、25倍になり、特にてんかんにおける予期しない突然死(SUDEP)は一般の人と比べ非常に高率になります。SUDEPの詳しいメカニズムや危険因子を調べるための集中的な動物実験、疫学調査、臨床研究がおこなわれてきましたが、いまだにSUDEPは、てんかん関連死の最も多い原因となっています。

現在分かっていること
 SUDEPを予防するためのエビデンスに裏打ちされた方法というものはまだありませんが、データは潜在的な治療戦略を示唆しています。これまでのケースコントロール・スタディでは、年3回以上の全身性強直性間代性痙攣(GTCS)はSUDEPのリスクと相関し、痙攣発作がなくなるとSUDEPのリスクは低下することが分かっています。この事は痙攣発作を減らすことがSUDEPを減らす効果的な戦略であることを意味しています。治療抵抗性の部分てんかん患者に対する無作為治験のメタ解析によれば、抗てんかん薬の効果があった群はプラセボ群に比べ、7倍もSUDEPが少なかったのです。一施設における大規模コホート研究では、てんかんの脳外科手術を受け、術後に発作から開放された人たちはそうでない人に比べ、その後の死亡率の低下が認められました。さらに、薬をきちんと服用しないといった発作を増やす因子は、死亡率の増加と相関していました。ですから、はっきりと証明されたわけではありませんが、てんかん発作、特にGTCSを減らす介入は、SUDEPを減らすと言えそうです。一方、てんかん手術後の生活の質の改善には、GTCSや部分てんかんを減らすのではなく、発作自体から開放されなければいけません。治療戦略としては、より多くの治療抵抗性患者が包括的なてんかんセンターに受診できるようにし、利用可能な治療オプションを探し、薬の内服を遵守させ、睡眠不足や過度のアルコール摂取などの発作を引き起こす可能性のある行動を減らすといった、「回避可能な」発作のリスクを減らすことがあげられます。
 Hardenらによって報告された疫学研究では、患者と同じ部屋に介護者がいること、またはビデオモニタリングによる患者の夜間監視が、てんかん患者のSUDEPを減少させることを示しています。SUDEPのほとんどの症例は睡眠中に起こり、死の引き金となる発作はしばしば目撃されることはありません。発作の直後に患者の対応をすることができる介護者は、この死に至るカスケードを中断し、応急処置を提供できる可能性があります。てんかんモニタリングユニットでの後ろ向き研究では、発作の初期に機械的刺激を与えること(患者に触れる、または吸引)は、発作の持続時間を短縮し、発作後の低酸素血症を減少させ、発作後の昏睡を短縮するようです。これは発作初期の介入の潜在的な患者への保護効果を示唆しています。タイムリーな発作前後の介入がSUDEPを防ぐことができるという考えに基づいて、今、起きようとしている発作を介護者に警告できるデバイスに関心が向けられています。利用可能なデバイスの例としては、発作に関連した身体の動き、筋肉の収縮、または皮膚コンダクタンスの変化を検出するウェアラブルセンサー、リズミカルな動きを検出するマットレスセンサー、およびビデオベースの体動検出器があります。これらのデバイスはいずれもSUDEPを防止することは示されていないため、さらなる研究が必要であり、又そのようなデバイスの精度は、特に家庭環境では不確実です。

A child being cared for during an epileptic seizure by a qualified special needs carer

バイオマーカー(生体指標)の必要性
 バイオマーカーは、SUDEPの個々のリスクを特定し、SUDEP予防を個別化し、SUDEPのリスクを患者に伝えるために必要です。入手可能なデータからは、SUDEPの発生率は小児で、年間1000人の患者で0.22人発生し、難治性てんかんの成人患者の場合、年間1000人の患者で4人発生することになります。我々の知る限り、最も強いSUDEPの危険因子である年3回以上のGTCSがある患者でのSUDEPに関する疫学データは存在しませんが、ケースコントロールスタディからの外挿では年間1000人の患者で5から18人発生している可能性があります。ただし、GTCSをおこしている患者を研究する場合でも、SUDEPの発生率を主な結果の指標として使用する適切な無作為化臨床試験は、多数の患者と年月が必要であり、費用も莫大となります。バイオマーカーは、遺伝的素因のような内因性の危険因子だけでなく、GTCS後の脳幹機能不全といった生後、時間とともに明らかになるような後天的危険因子も明らかにします。外来患者にウェアラブルデバイスを用いて定期的に危険因子の特徴を補足することにより、SUDEPの危険とバイオマーカーをより正確に評価できるようになる可能性があります。またバイオマーカーは、SUDEPのメカニズムを明らかにし、SUDEPの予防的治療の判定するための指標となる可能性があります。しかし、心臓病におけるバイオマーカーを使った多くの研究は、臨床的な意義をもたらすことができなかったので、SUDEPにおけるバイオマーカー(発作後の脳波や画像所見)の扱いにも注意が必要です。

SUDEPに対する予防的治療
 SUDEPのリスクに対する予防的治療効果を確認するためには、SUDEPの発症率を指標とした無作為二重盲検試験が必要です。治療抵抗性のてんかん患者を対象とした研究では、SUDEPの発生率は非常に低いため多くの患者の参加が必要になります。もし、SUDEPのリスクを50%減らす治療法の効果を確認したい場合、12404人の患者数が必要となります。特に体内埋込式デバイスを利用した治療介入の場合、金額的にも、また、身体にメスを入れる治療であるため多くの患者を集めるのは困難でしょう。しかし、SUDEPを80%減らす治療法の治験であれば、患者数は264人で済みます。いずれにせよ、こうした治験には多くのハードルがあります。
中間的なアプローチとしては、治療効果の指標を直接SUDEPの発症率でみるのではなく、SUDEPと強く相関するようなバイオマーカーを治療効果の指標とする方法があります。このような研究であれば患者数は少なくて済みますし、てんかんモニタリングユニットや、ウェアラブルデバイスを用いて外来で行うことも可能です。
古典的無作為試験に代わる方法としては、大規模なクラスター・ランダム化比較的があります。この方法は、1994年にアメリカでおこなわれた、乳幼児突然死症候群を60%減らした「Back to Sleep」キャンペーンなどの予防的介入に適しています。現在、ヨーロッパで国単位をクラスターとするやり方で議論されていますが、まだ詳細は決まっていません。
結論
 SUDEPに対する認識と研究は過去10年で大きく成長しました。多くの患者が発作を検出し介護者に警告を出せるデバイスを使用しています。しかしSUDEPに対する認識、教育、研究、発作検出の進歩が患者の生命を救えるかはまだ分かっていません。私達は、そうなることを願っていますが、SUDEPを正確に追跡できるようになるまでは、それは分かりません。SUDEPのサーベイランスは、SUDEPの予防のための大きなアンメットニーズ(必要だが、まだ実現していない)です。世界中でも、まだSUDEPの発生率を正確に監視できる公衆衛生システムを持つ国はありません。
今こそ、SUDEPの予防に力を注ぐ時です。SUDEPを正確に再現できる動物モデルがあれば、そのメカニズムや死を防ぐ治療について分かることがあります。また超高リスク群のバイオマーカーを特定するための患者集団の研究、外来患者の研究、てんかんモニタリングユニットでの危険因子の特定、およびアドヒアランスとライフスタイルの改善を通じて、発作を減らすための患者と家族のための様々な教育戦略の有効性の評価が必要です。今こそ、SUDEPの防止について話すことから、それを防ぐことへと移行する時です。

Orrin Devinsky、MD、ニューヨーク大学医学部神経科
▲ ページのトップに戻る

Close

HOME