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恐怖と間違った情報という名の伝染病

[2020.02.24]
恐怖と間違った情報という名の伝染病

An epidemic of fear and misinformationの抄訳です。

Blood sample with respiratory coronavirus positive


私がこれを書いている時には、新型コロナウィルスの拡散は続いており、全世界で5万9千人を超える感染者と、1300人を超える死者が出ています。またコロナウィルスは恐怖もまた拡散させています。ソーシャルメディアの現代においては、誤情報は病気よりも速く拡散します。
死に至ることもある新しい病気のニュースは、他の実体のある心配(お金の心配など)を我々の心から締め出してしまいます。人間はリスクを評価したり、リスクに対して一貫性をもって、かつ合理的に対応する事は上手くありません。
人によって、リスクを異なる方法で扱います。他人よりもリスクを避ける人もいれば、スロットマシンやスカイダイビングのようにリスクから喜びを得る人もいます。ほとんどの人は小さな確率というものを理解できず、アメリカ人は(当たる確率がほとんどないと言っていいくらい小さい)宝くじに毎年、何千万ドルもつぎ込みます。
COVID-19に感染した人の98%は回復しているのですから、これは人類絶滅の危機とかゾンビ・アポカリプスのようなものではありません。これは大きな健康上の問題であり、人々が手洗いや責任をエチケット、具合の悪い時は家から出ないと言った公衆衛生的に良い行いを早期から効率的に行えば、罹患率や死亡率を減らす事ができます。しかし、恐怖、差別、間違った情報はウィルスそのものより害をもたらします。
この恐怖を減らすための3つの鍵があります。
一つ目は、正確な情報を皆に伝えるコミュニケーションです。こうしたコミュニケーションは、きちんとした裏付けのない、あるいは根拠が不明確な誤情報を意図的に少し混ぜ込むようなニュースを拡散させるソーシャルメディアによって大きく毀損されてしまいました。こうした状況を、1988年に公衆衛生局長官であったC.エベレット・クープが、AIDSについてのパンフレットを各家庭に郵送した事と比較してみてください。このコミュニケーションの重要な点は、国民が政府や衛生当局が責任を持ってタイムリーに情報を伝えてくれると信頼しているという事です。中国政府はCOVID-19に対する早期の警告を妨害したと非難されています。クープ博士もまた、レーガン政権内でHIVに関わる性的嗜好、道徳的な問題を議論する事を忌避したいという状況を克服しなければいけませんでした。残念ながら2010年代にアメリカ国内でオピオイドの大流行による死者が自殺者や交通事故死を超えた時に、こうしたリーダーシップを発揮する人は出現しませんでした。
2番目は科学者に対する信頼です。
反ワクチン派、気候変動懐疑者、金目当ての科学者によって、50年前のアポロ月計画の時と比べ、科学者に対する信頼は大きく傷ついてしまいました。
3番目は視点(大局観)です。貧困なジャーナリズムやクリックバイト(わざと扇情的な見出しや刺激的なサムネイル画像をつけてネットユーザーのクリックを誘うウェブページやリンクや動画や広告などのこと)は稀な出来事に過剰に注意を引きつけます。飛行機の墜落事故は一面に載りますが、交通事故による死亡事故は年間にして飛行機事故の100倍以上の死者が出ていますが、地方メディアでも話題になりません。毎週誰かが宝くじに当選しますが、ギャンブルによる借金に興味を持つ人はほとんどいません。
インフルエンザはCOVID-19の何倍もの死者を出していますが(今シーズンのアメリカでのインフルエンザによる死者数は1万人以上)、ニュースが取り上げるのはクルーズ船の事ばかりです。アメリカでは、毎年何千万人もがインフルエンザに感染し、そのうち100人に1人が入院し、100人に0.5人が亡くなります。
新型コロナウィルスの死亡率はインフルエンザより高率ですが、2003年に流行したSARSでは1000人あたり96人が死亡したのに対して、新型コロナウィルスの死亡は今のとこら1000人あたり20人です。しかもCOVID-2019では症状が軽く、医療機関を受診せず検査も受けないで済んでしまう人達がかなりの割合いますから、この死亡率は実際にはもっと低い可能性があります。大局的に見れば、1952年のアメリカでは、年に5万人のポリオ患者が発生し3千人が亡くなりました。ポリオウィルスの感染の95%は無症状か、症状はあっても軽くこうした人達は報告されていない可能性があり、上記の死亡率はもっと低い可能性があります。1950年代のアメリカでは、毎年平均して50万人の麻疹患者が発生しており、栄養状態が良好で適切な医療を受けたにも関わらず、毎年500人が亡くなっていました(死亡率では1000人に1人)。栄養状態が悪く適切な医療を受けられなければ、この死亡率は1000人あたり100人まで増加します。これが、2018年においても全世界で14万2千人が麻疹で亡くなっている理由です。2000年には53万6千人が亡くなっており、それに比べれば改善していますが、それでも世界的に麻疹は子供が亡くなる主たる理由になっているのです。
一方、アメリカでは、毎年7万人の薬物過剰摂取による死亡が起きており、5万人が自殺し4万人が交通事故で亡くなっています。
小児科医にとって、安心を与えるという事は日常的な仕事になっています。我々は、起こる確率は低くても一旦起こると重大な結果を引き起こす要因を探します。通常はそうしたものは見つからず、両親を安心させる事ができます。リスクの高い要因を見つけて治療する事もあります。私の仕事は専門家として心配する事により、両親の心配を減らす事です。
私はCOVID-19に対して不安はありますが、非合理的な人々は私をもっと不安にさせます。我々の本当の敵は、恐れ、間違った情報、差別、経済戦争なのです。
ケビン・パウェル(病院小児科医、臨床倫理コンサルタント)
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