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脳ドックは何のため?(2022.06.08更新)

時々、患者さんから「脳ドックを受けた方が良いですか?」と聞かれることがあります。多くの場合は知り合いや身内が脳梗塞を起こしたり、認知症と診断されたことがきっかけのようです。つまり、「自分もあんな風になりたくないから、脳の検査を受けた方が良いですか?」という意味だと思います。

私は脳ドックを受けたことはなく(随分前に、大学の研究に協力するために頭のMRIを撮影したことはあります)、周りの脳神経内科医でも脳ドックを受けたと言う人は聞いたことがありません。

脳のMRIを撮影して分かる病気(病的所見)はおおよそ以下の通りです。

1.古い脳梗塞や脳出血の跡(特に小さな脳梗塞の跡が見つかることが多い)

2.脳の萎縮

3.動脈瘤

4.脳腫瘍(かなり希)

一番よく見られる所見が1の古い脳梗塞の跡です。自分では覚えがないのにMRIを撮影すると、小さな脳梗塞の跡が見つかることがあります。特に65歳以上と年齢が上がるにつれ珍しくなくなります。こうした症状を起こさない脳梗塞の事を無症候性脳梗塞と呼びますが、巷では隠れ脳梗塞と呼ばれているようです。こうした無症候性脳梗塞は脳血管の動脈硬化と比例します。動脈硬化は加齢、高血圧、糖尿病などで促進しますので、どうしても高齢者や高血圧、糖尿病を持っている人の脳では無症候性脳梗塞が見つかりやすくなります。

脳梗塞はいったん出来ると消すことはできないので、MRIで見つかった無症候性脳梗塞に対しては特に治療法があるわけではありません。これ以上、増えないようにするにはどうしたら良いのでしょうか?最近は減りましたが、以前は無症候性脳梗塞が見つかると患者さんに抗血小板剤という血液をサラサラにする薬を処方する医師が結構いました。抗血小板剤は血液を固まりにくくすることにより脳梗塞を予防します。こう聞くと、それなら飲んでいた方が良いよねと思いますが、そうではありません。血液をサラサラにするということは、逆に出血が起きやすくなるということです。頭をぶつけたりした時に、こうした血液を固まりにくくする薬を服用していると脳出血が起きやすくなります。また胃からの出血も増えます。無症候性脳梗塞がある人が抗血小板剤を服用すると、脳梗塞を起こす確率は減りますが今度は出血を起こす率が増えてしまいます。長い目で見ると脳梗塞が減るというメリットより、脳出血が増えるというデメリットの方が多くなってしまうことが分かっており、無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞)の人に抗血小板剤を投与することはありません。

ではどうしたら良いのでしょうか?動脈硬化は高血圧、糖尿病、悪玉コレステロールの増加で進みますので、要は生活習慣の改善や投薬によって血圧や血糖値、コレステロール値を正常に保つことが何よりの脳梗塞の予防になります。喫煙している方なら禁煙をした方が良いです。

もしあなたが50代の男性で、少し肥満気味で普段運動する習慣はなくタバコを吸っており、毎日ビール500mlと酎ハイを飲んでおり、健診では血圧と尿酸値が少し高いと言われているとします。同僚が脳梗塞を発症し、自分も脳梗塞を起こすのではと心配になり脳ドックを受けたとしても、脳梗塞の予防には全くなりません。例え毎月MRIを撮ったとしてもです。脳梗塞を予防するためにあなたに必要なのは禁煙、適度な運動、減量、お酒の量を減らし場合によっては薬で血圧や尿酸値を下げることなのです。逆にこうした事ができていればMRIを撮る必要もありません。

自分の脳の中に隠れ脳梗塞があろうがなかろうが、高血圧や糖尿病、高コレステロール、喫煙は体に良くないのできちんと治療することが必要な訳ですから別に脳梗塞の予防のためにMRIを撮る必要は乏しいということになります。

次に、脳の萎縮についてですが、必ずしも脳の萎縮が目立つ人でも認知症とは限りません。逆に認知症の初期ではMRIを撮影しても萎縮の程度は年齢相応のことは珍しくありません。仮にMRIを撮影して脳の萎縮が見つかっても、萎縮を治す薬はありません。医師に相談しても、適度な運動や高血圧、糖尿病、お酒の飲み過ぎに気をつけてくださいという、ごく当たり前(?)のアドバイスだけになります。現在あるアルツハイマー型認知症の薬は、認知症の症状はほとんどない人に投与しても、認知症の発症予防や進行抑制の効果はありません。なので、MRIを撮影して脳の萎縮を仮に指摘されたとしても、それに対してできることはなくもやもやした不安を抱えたまま生活することになります。

動脈瘤ですが、脳の血管に瘤のような膨らみが出来ることがあります。この瘤が破れると脳出血(くも膜下出血)を発症し、命を落としたり重い後遺症が残ることが珍しくありません。破れる前ならこの動脈瘤をカテーテルを使って破れないようにすることができます。おそらく脳ドックの始まりは、この動脈瘤を破裂前に発見し治療するという目的から始まったのだと思います。ただ、動脈瘤は見つかっても全てが治療適応にはなりません。治療自体も5%程度の合併症が起こると言われていますので大きさが5mm未満で破裂しにくい場所にあるようなものは経過観察になります。高齢の方の場合は、そもそも未破裂脳動脈瘤が見つかっても治療をしないことが多いと思います。

たまたま見つかる動脈瘤のほとんどがすぐに治療適応にならないものだと思いますが(脳ドックの報告では見つかった動脈瘤の60%が5mm未満)、その場合は、自分の頭の中にまだ破裂していない動脈瘤があるという事実と付き合って生活していく必要があります。また動脈瘤が大きくても、場所によっては治療が難しく5mm以上でも経過観察となる場合もあります。実際に、私が以前診た方で、友達がくも膜下出血を起こしたため自分も脳ドックを受けたところ、5mm未満の動脈瘤が見つかりました。医師からは「破裂する危険は少ないので、年に1回MRIを撮影して経過を見ましょう」と言われましたが、動脈瘤が頭の中にあるという不安感からうつ病を発症してしまいました。細かいことが気になる人、心配性の人は脳ドックは受けない方が良いと思いますが、実際にはこうした人の方が受けるようです。

最後に脳腫瘍ですが、非常に希です。見つかってもほとんどは良性の腫瘍で早期発見する意味はあまりありません。また悪性の脳腫瘍は早期に見つかったとしても予後は不良ですので、早期発見する意味はやはり乏しいです。

1-2親等以内にくも膜下出血をおこした人がいる場合は、動脈瘤がある可能性が少し高くなります。上記のメリット、デメリットを理解した上で脳ドックを受けてみても良いと思います。

[caption id="attachment_2921" align="alignnone" width="300"] Brain disease diagnosis with medical doctor seeing Magnetic Resonance Imaging (MRI) film diagnosing elderly ageing patient neurodegenerative illness problem for neurological medical treatment[/caption]

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