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新しいアルツハイマー病の治療薬(2021.06.08更新)

昨日、アメリカのFDA(日本でいうところの厚生労働省のようなところ)が、新しいアルツハイマー病の治療薬であるアデュカヌマブを承認したことが一斉にニュースで伝えられました。

承認された認知症薬アデュカヌマブ 革命的との評価も

この薬は日本の製薬会社であるエーザイの子会社のバイオジェンが開発した薬です。この薬が画期的と言われる所以は、アルツハイマー病の原因そのものに対する治療だからです。これまで日本、世界で使われているアルツハイマー病の治療は症状を緩和させる効果しかありません。一方、アデュカヌマブは、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβという物質を減らす働きがあります。

アルツハイマー病は、中年期以降に脳の中でアミロイドβというたんぱく質が徐々に蓄積し、これが発症の引き金になると現在は考えています。ただ難しいのは、アミロイドβはあくまで発症の引き金ということなので、病気が発症しある程度進行してしまうとアミロイドβを減らしても効果がありません。例えば、車が衝突しそうになる前に自動ブレーキが作動すれば被害は軽減できますが、衝突してからブレーキが作動しても効果はないのと似ているかもしれません。

つまりアデュカヌマブが対象となるのは、まだ認知症かどうかすぐには判断できないような初期の軽い人ということになります。そうなると問題となるのは、そうしたごく初期のアルツハイマー病の患者さんをどのように拾い上げるかということになります。認知症の患者さんの脳を死後に調べると、アルツハイマー病は全体の6-7割程度と言われていますので、初期のアルツハイマー病をいかに正確に診断するかが鍵となります。

現在使用されているアルツハイマー病の治療薬は、そこまで厳密にアルツハイマー病かどうかを確認せずに投与しています。では、なぜアデュカヌマブでは厳密に患者を選別する必要があるのでしょうか。一番の問題は、薬価です。アデュカヌマブはモノクローナル抗体医薬品と呼ばれる種類の薬です。モノクローナル抗体医薬品は抗癌剤を初め、現在様々な病気の治療薬として開発されていますが、軒並み高価です。おそらくアデュカヌマブも一連の治療に必要な薬価は100万~数百万円になるのではないかと予想されます。アルツハイマー病かどうかを診断するということは、脳内にアミロイドβが蓄積されているかどうかを調べることが必要です。現在この方法としては、PETスキャンと髄液検査の2つがあります。PETスキャンは患者への負担が少ない検査ですが、検査可能な施設が限定されることとと検査費用自体が高価で数十万円必要です。髄液検査はある程度の規模の病院であれば簡単にでき費用もそこまで高価ではないですが、少し苦痛を伴うことや希にですが合併症が生じる検査です(髄液を抜くためには腰に局所麻酔をして針を刺します)。理想的には血液検査で脳内のアミロイドβの量を測定できれば良いわけで、現在世界中で研究が進んでいますが実用化までは後一歩です。

アデュカヌマブの認可自体も、FDAに助言・勧告をおこなう委員会では反対する人の方が多数だったそうです。認知症専門医でも、このアデュカヌマブに対して否定的な意見をもつ人は少なくありません。その理由の一つは、費用対効果です。アデュカヌマブもアルツハイマー病を治す訳ではなく進行を遅らせる効果しかありません。また、これまでにもアデュカヌマブと同様にアミロイドβを減らす薬は沢山開発されましたが、全て効果を証明できず撤退しています。アデュカヌマブも最初の治験では効果が証明できておらず、その後のデータの再解析で効果を証明できており、その効果自体、否定は出来なくともかなり微妙なのではないかという意見があります。つまり、すごい効果がある薬であれば最初の治験ではっきりとした差が出たはずです。その後、症例数を増やしてやっと効果を確認できたということは、その効果はそれ程大きくない可能性があります。

今回のFDAの承認を受けて日本でも承認される可能性が高いとは思いますが、誰もが気軽に使える薬という訳でもないようです。しかし、アルツハイマー病の原因そのものを標的とした治療薬が認可されるのは初めてですので、これをきっかけにさらなる治療薬の発展につながることを期待したいと思います。

追記

上のように結論しましたが、私はこのアデュカヌマブの効果には疑問を持っています。その理由として

  1. これまでアデュカヌマブと同じようなアミロイドβ抗体やそれ以外にも様々なアミロイドβを標的とした治験がおこなわれてきましたが、全て失敗しています。アミロイドβがアルツハイマー病の発症に重要な役割を果たしているとは思いますが、それを標的とした治療は失敗の連続です。アデュカヌマブも原理としてはアミロイドβを減らすということですから、これまでの薬と大きくは変わりません。
  2. 上でも書いたように、アデュカヌマブも最初の治験では効果が出ず症例数を増やしてようやく効果が出ています。このような場合、効果はあっても僅かの可能性があります。
  3. 世界には、遺伝子の異常でアルツハイマー病を発症する家系があることが分かっています。こうした家系で異常な遺伝子を親から受け継いでいる人は100%アルツハイマー病を発症します。しかも、発症年齢もおおよそ決まっているのでアミロイドβが脳に溜まり始める年齢もおおよそ決まっています。こうした人たちであれば、症状が出る前からアミロイドβを減らす治療を行うことができます。実際にアデュカヌマブに似た薬を、遺伝子異常を持つ人に投与する研究が行われましたが効果は見られませんでした。これだけ理想的な環境でアミロイドβを減らしても効果は出なかったのです(もちろんアデュカヌマブの治験に比べれば、対象人数がずっと少ないですが)。

FDAは承認後も追加で調査をおこなうよう指示しているようですので、その結果を待ちたいと思います。

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