GBA遺伝子、パーキンソン病、去痰薬
パーキンソン病がなぜ発症するのかということは、一部の家族性パーキンソン病を除けば今でもよく分かっていません。
現在の有力な仮説としては、もともと持っているパーキンソン病になりやすという因子(先天的なもの)と、環境因子(後天的なもの)の両方が重なってパーキンソン病が発症すると考えられています。ただ、こうした先天的な因子や後天的な因子はおそらく複数存在し、まだ十分解明されてはいません。
10年位前に、GBAという遺伝子がパーキンソン病の発症に関与しているということが報告されました。私たちは両親のそれぞれから遺伝子を受け継ぐので、GBA遺伝子も体内に2つ対で存在します。このGBA遺伝子に両方とも変異があるとゴーシェ病という病気を発症します。ゴーシェ病というのは代謝異常の病気で、パーキンソン病とはまったく似ていません。GBA遺伝子の片方だけに異常があると、パーキンソン病を発症しやすくなります(必ず発症するわけではない)。パーキンソン病患者さんの7%がこのGBA遺伝子の変異を持っています。またGBA遺伝子の変異を持っている人は、そうでない人に比べて6.5倍パーキンソン病を発症しやすいことが分かっています。またGBA遺伝子の変異があるパーキンソン病患者さんは、変異が無い患者さんに比べて進行が早く認知機能も低下しやすいようです。
では、なぜGBA遺伝子に変異がおこるとパーキンソン病を発症しやすくなるのでしょうか?GBA遺伝子に変異がおきて遺伝子が正常に働かなくなると、この遺伝子が作り出すGCaseという酵素の働きも低下してα-シヌクレインという蛋白質が脳内で蓄積しやすくなるということが、その後の研究で分かってきました。α-シヌクレインは患者さんの脳内で蓄積しておりパーキンソン病の原因物質と考えられています。
話しが長くなりましたが、要約すすると、GBA遺伝子に変異がおきるとGCaseの働きが低下するためにα-シヌクレインが脳内で蓄積してパーキンソン病を発症しやすくなると考えられます。では、この機能が低下したGCaseの働きを回復させる物質があれば、例え遺伝子に変異があってもα-シヌクレインの蓄積を防ぐことができるかもしれません。
既存の薬物からこのような物質を探したところ、アンブロキソールという薬物がGCaseの働きを回復させることが分かりました。アンブロキソールというのは去痰薬といって痰を切れやすくする薬で、市販の風邪薬にも入っている成分です。実際にパーキンソン病の患者さんにアンブロキソールを投与すると、脳内のGCaseの活性が改善しα-シヌクレインの蓄積が減るという結果が得られています。
最近、カナダから認知症を伴うパーキンソン病患者にアンブロキソールを投与して認知症の進行を抑えられるかどうかを調べた治験結果が発表されました(PMID: 40587145)。
55名のパーキンソン病患者さんを2群に分けて、アンブロキソールとプラセボ(偽薬)が52週間投与されましたが、残念なから実薬群とプラセボ群の間では認知機能低下の進行に対しては効果に差がありませんでした。ただ精神症状については実薬群で効果があった可能性があり、またGBA遺伝子変異の保因者の一部では認知機能の明らかな改善が見られています。
以上の結果より、GBA遺伝子変異をもつパーキンソン病患者さんではアンブロキソールは進行抑制、症状改善効果があるかもしれません。アンブロキソール自体は風邪薬にも入っているくらいなので副作用はあっても非常に軽微です。今後、GBA遺伝子変異をもつ患者さんを対象にさらに大規模な治験が行われるかもしれません。

