神経難病共通の治療法
パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患は、程度の差はあれども病気自体を治す方法は見つかっておらず難病と言われています。
この30年で、こうした神経難病では、ある特定の蛋白質が増え蓄積することにより神経細胞死が起こるという共通のメカニズムがあるということが分かってきています。ただ、その原因の蛋白質は疾患ごとに異なり、例えばアルツハイマー病ではアミロイド、タウ蛋白、パーキンソン病ではαシヌクレイン、ハンチントン舞踏病ではハンチンチンという蛋白といった具合です。どの蛋白質が増えるかによって病状が決まるとも言えます。
最近、アメリカから、こうした蛋白質の蓄積を防ぐメカニズム、しかも多様な神経疾患で共通のメカニズムがあると報告されました。この研究のきっかけですが、ベネズエラにハンチントン舞踏病の家系が存在するのですが、その中に遺伝子の異常を持ちながら発症が非常に遅い人が複数名いることが分かりました。こうした人達は何らかの発症予防メカニズムを体内に持っていると考えられます。さらに調べると、これらの人達にはWDFY3という遺伝子に変異があることが分かります。つまり変異型のWDFY3遺伝子はハンチントン舞踏病の発症を防ぐ働きがあるということです。このWDFY3という遺伝子はAlfyという蛋白質を作ります。そこで研究者達はこのハンチントン舞踏病を発症するように遺伝子操作したマウスに変異型WDFY3遺伝子を導入したところ、異常な蛋白質の凝集が減り、運動機能や寿命も改善したのです。さらには、パーキンソン病のモデルマウス(人為的にαシヌクレインを脳内に注入したもの)やタウ蛋白をたくさん作るように遺伝子操作したマウスに変異型WDFY3遺伝子を導入したところ、やはり蛋白質の蓄積・凝集を抑制し神経細胞死の抑制などの病気を抑える効果が確認されたのです。
こうした結果から、変異型WDFY3遺伝子には多様な神経難病の発症を抑制したり進行を抑える働きがあると考えられるのです。では、変異型WDFY3遺伝子は何をしているのでしょうか?変異型WDFY3遺伝子はAlfyという蛋白質を過剰に生産します。私たちの体内には、不要な蛋白質を除去する仕組みが備わっていますが、このAlfyは凝集・蓄積した異常な蛋白質を分解させる仕組みに関与しています。ですから、Alfyが過剰に作られることにより、病気の原因となっている異常蛋白質が減って進行抑制効果につながると考えられます。
この30年の神経難病の治療の流れは、おおまかに言ってこの異常蛋白質をいかに除去するかという事に主眼が置かれてきました。これまでは、それぞれの蛋白質に特異的な薬剤の開発が行われ、一部は成功しています(例えばアルツハイマー病のレカネマブという薬はアミロイド蛋白質を除去する薬です)。しかし、今回の研究からは多様な神経難病に共通して有効である治療戦略の可能性を示唆しています。詳細は不明ですが、これを発表した研究者達はAlfyを増やす治療の特許を出現しているそうですので、いずれ、この方法を使った治療法の治験が行われるかもしれません。

