ミトコンドリア移植によるパーキンソン病治療の可能性
生物の細胞の中にはミトコンドリアという器官があり、ここで細胞が活動するために必要なATPというエネルギーが産生される非常に重要な場所です。
そして、このミトコンドリアの異常によって発症する病気が多くあります。
例えば、ミトコンドリア遺伝子の異常によって発症するミトコンドリア脳筋症、リー症候群という病気があります。またパーキンソン病やアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症などの神経難病、糖尿病、心不全などの病気でも細胞内のミトコンドリア機能の低下が発症に関係していると言われています。
パーキンソン病や多系統萎縮症では、ミトコンドリアの機能を改善させる目的でコエンザイムQというサプリを患者さんに投与するという研究、治験も行われています(少し効果はあったようです)。コエンザイムQというのはミトコンドリアの中でATPというエネルギーを産生するために必要な酵素です。
機能の低下したミトコンドリアにコエンザイムQを投与するのは、ものすごく大雑把に言うと、病気で弱った馬に美味しいニンジンを与えて頑張って走らせるようなイメージです。原因となっている病気を治さなければ、いくら美味しいニンジンを与えても限界があります。
これまでにも、弱ったミトコンドリアを修復したり入れ替えようとする試みはなされてきましたがうまく行きませんでした。今回、中国から、比較的簡単な方法で健康なミトコンドリアを細胞に移植することに成功し、かつパーキンソン病のモルマウスに健康なミトコンドリアを移植することにより症状を改善できたという報告がありました。
具体的には、まず細胞からミトコンドリアを分離します。次にヒト赤血球を溶血という方法で外側の膜だけを残しこれをミトコンドリアと混ぜると、何割かのミトコンドリアがこの赤血球膜の中に取り込まれます。このようにしてミトコンドリアが中に入ったカプセルができます。このカプセルを細胞と混ぜると、カプセルが細胞内に取り込まれてミトコンドリアを置き換えることができます。つまりミトコンドリアを移植することが可能になります。またこのように移植されたミトコンドリアが正常に機能していることも確認しています。マウスに、このミトコンドリアカプセルを静脈注射するとマウスの脳、心臓、肝臓にミトコンドリアが取り込まれていることも分かります。
最後に、MPTPという薬を使ってパーキンソン病症状を人為的に作り出したパーキンソン病モデルマウスにミトコンドリアカプセルを投与すると、ミトコンドリア機能、運動機能ともに改善しています。
そもそもMPTPという物質は、脳内黒質のミトコンドリアを障害することによりパーキンソン症状を発症させる薬です。このような方法で作ったモデルマウスに正常なミトコンドリアを移植すると症状が改善したということです。
今回は詳しく書きませんでしたが、ミトコンドリア遺伝子に先天的な異常があり発症するMELASや、リー症候群は生命に関わる重篤な病気ですが、今回の方法によりこうした病気も治療ができる可能性があります。
比較的容易な方法で、異常なミトコンドリアを修復できるというのは画期的な研究です。この方法が実用化されれば、これまでとは全く異なるアプローチの治療法ができるかもしれません。
箱に入ったマウスの運動の軌跡
左が普通のマウス、中央がMPTPで処理したパーキンソン病モデルマウス、右がパーキンソン病モデルマウスにミトコンドリアを移植したもの。中央に比べて、ミトコンドリア移植をした右のマウスは運動量が増えていることが分かります。

