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誤作動する脳

[2020.06.10]
樋口直美さんの「誤作動する脳」を読みました。
樋口さんは50歳でレビー小体型認知症と診断され、その後は患者の立場から講演や著作など情報を発信されている方です。
若年性認知症の方の中には、自分の体験を著作として出されたり講演されている方がいますが、この本も、当事者でしか書けないリアルな患者さんの気持ちや体験が綴られています。

この本の中で感銘を受けた部分を挙げてみます。

「私たちを社会から切り離すのは、単純な無知や根拠のない偏見ではなく、専門科の冷酷な解説だと私は感じていました。それは病気の症状そのものよりもずっと重いものでした。」

「「幻視は異常じゃない」と顔と実名を出して社会に向けて訴え続けてきたのに、「また見えるようになりました」と言おうと思うと、喉がぎゅっとつまるのです。」

「私の手にしている時間は、私が誕生してから死ぬまでの科ぎっれた短い期間です。でもそれは数え切れない他者の時間と複雑に結びついていて、私の時間が終了しても、この網は、途切れることなく広がり続けていくのだと感じます。」

「記憶障害と「忘れた」は異質だと、私は思いました。「忘れた」のではなく、その「時間」が、存在していないのです。(中略)だから、健康な人の「忘れる」を基準に対応しても無効です。何度も言えば忘れない、本人が努力さえすれば忘れない、叱咤激励すれば思い出す・・・・ということはないでしょう。」

「笑顔は人間関係を円滑にしますし、それ自体が力を持っています。ただ講演活動をする認知症当事者に、つねに前向きな元気さと明るい笑顔を期待するような空気は、自然でないように感じます。」

樋口さんは、自分の記憶障害を観察し、その本態は注意力の障害であることを見抜いています。また、時間感覚の異常も、「見当識障害」とラベリングされるものではなく「時間の距離がつかめない」のだと書いています。こうしたことは、本当に当事者でなければ書けません。
若年性認知症の方の多くが、認知症と診断されるまでに時間がかかりますが、樋口さんもまたレビー小体型認知症と診断されるまでは長くうつ病と診断され、抗うつ薬を服用してもどんどん体調が悪くなり苦しい時期を過ごされたようです。だからと言ってこの本の中には、医療者を糾弾するような内容はありません。ただ、患者から薬を減らしたいと言うことが、いかに難しいかが書かれており、医師として考えさせられます。

樋口さんは自分なりに認知症や医療について勉強されており、また彼女の病気、身体、精神に対する認識は、レビー小体型認知症を患ったからこそ可能になったものだと思います。

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