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中国発のアルツハイマー病治療薬

[2020.01.04]

昨年11月に、中国で新しいアルツハイマー病治療薬GV-971が認可されたというニュースが流れました。
中国でアルツハイマー新薬が承認 軽〜中度の患者に効果
GV-971は中国国内で開発され治験を終了し正式に認可された薬です。またその直前の9月にCell Researchという雑誌にこの薬による動物実験の結果などの詳細が含まれた論文が掲載されました。この論文を読むと、GV-971がこれまでに開発されたアルツハイマー病治療薬の模倣・改良ではなくまったく新しいい仕組みの薬であることが分かります。
この薬の開発の契機となったのは、ある種の海藻をよく食べている高齢者に認知症の患者さんが少ないことに気づいた開発者が、海藻の成分からムコ多糖類であるGV-971を開発したようです。
注目すべき点は、脳に直接作用するわけではないという事です。これまで開発されたアルツハイマー病の薬は、いずれも脳内の神経細胞に作用しています。では、なぜ脳に直接作用しない薬がアルツハイマー病に効果を発揮するのでしょうか。

その手がかりは腸内細菌叢にあります。
私達の消化管の中には無数の細菌(1000種、100兆個)が生息しており、これを腸内細菌叢と呼んでいます。近年、この腸内細菌叢がその人の太りやすさといった体質だけでなく、様々な病気と関与しているという研究報告が相次いでいます。脳神経の病気でも、アルツハイマー病やパーキンソン病が腸内細菌叢と関係しているという報告があり、簡単に言うと、腸内細菌叢の”乱れ”がこうした病気の要因になっているという仮説です。腸内細菌叢の乱れにより血液中のヘルパーT細胞というリンパ球が活性化され、それが脳の中に入って脳の中で炎症反応という変化を引き起こすことがアルツハイマー病の原因の一つではないかという説があります。GV-971を遺伝子操作しアルツハイマー病を発症するようにしたマウスに投与すると、腸内細菌叢が変化し脳の中の炎症反応が減りアルツハイマー病特有の脳内の変化も減り認知機能が改善した、と上記の論文で報告しています。

これが本当なら、腸内細菌叢を標的とする初めての薬になるかもしれませんし、脳と腸内細菌叢との関連を臨床上初めて証明したことになります。また価格も注目すべき点です。現在、エーザイとバイオジェンが開発し申請しているアデュカヌマブという薬があります。この薬もGV-971と同じく、ごく初期のアルツハイマー病もしくはその前段階の人に対する薬ですが、この薬は高分子医薬と呼ばれる種類の薬でかなり高額になると予想されます。一方、GV-971は低分子医薬でムコ多糖類であるという点からも、薬価はアデュカヌマブと比較してもかなり安い(1/10以下?)と予想されます。高額なアデュカヌマブは投与可能な患者さんはかなり厳しく選ばれると思いますが、GV-971は投与の敷居が比較的低く、多くの患者さんに投与できる可能性があります。

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